日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S207
会議情報

発表要旨
国公立大学における地理入試と大学地理教育
*松井 圭介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1)本報告の背景と目的

 大学入試における「地理」を取り巻く環境は依然として厳しい。周知の通り「世界史」必履修が定められた学習指導要領(1994年入学者より実施)以降、受験科目選択時における高校側の指導に加え、入試問題作成にあたる大学側の事情も重なり、地理受験生の減少および地理による受験可能大学の減少という悪循環に陥ってきた。津川ほか(2006)の報告でも、2006年度入試において、2次試験に地理の問題を出題した国公立大学は18大学(含む文部科学省管轄外大学)にとどまったことが指摘されているが、現在では15大学とさらに減少している。

 本報告では、2022年度から「地理総合」が必履修化されることにより、国公立大学をめぐる2次試験における「地理」の可能性について、報告者の勤務する筑波大学の状況を例に、地理入試および大学における地理教育の現況報告を通して、地理入試を多くの大学で取り入れることの可能性について考えることを目的とする。

2.地理入試の現状と課題

 筑波大学では開学以来一貫して、一般入試において「地理」を選択科目の一つとして出題している。文系学群における地歴(・公民)の選択科目だけでなく、一部の理系学群においては、理科一科目とあわせて地理受験が可能である。試験時間は2時間(文系は1科目、理系は2科目)となる。予備校等の分析によると、学習指導要領に準拠した標準的な設問であり、自然地理、人文地理、地誌の各分野からバランスよく出題されている。アドミッションポリシーに沿う、知識に加え、思考力・表現力を問う記述式問題が中心である。 課題として一般論になるが、入試問題作成には細心の注意が必要である。地理の場合は図表、地図等の作成も含め、他の科目以上に作問負担が大きい。国公立大学では、第3期中期目標期間における人事抑制が進んでおり、作問の担い手になる教員数の減少や高齢化、各種エフォートの増加による労働環境の悪化など、厳しい状況が続いている。

3. 大学における地理教育カリキュラムと将来展望

 筑波大学地球学類における教育のカリキュラムでは、高校地理、地学の知識は必ずしも必要ではないが、高校時代の学びを大学の専門教育にいかに接合するか、教員は努力している。新学習指導要領による「地理総合」の必履修化は、国公立大学の2次試における「地理」導入に追い風になるのだろうか?従来のディシプリン型大学教育が過去のものとなるなかで、社会あるいは学術において、「地理」がいかに有用であるか、さらなるアピールと教員の努力が求められよう。

引用文献

津川康雄・小宮正美2006.大学入試地理の危機.日本地理学会発表要旨集 69: 92.

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top