1990年代以降、アジア人によるガーナの商業分野への投資・参入がみられるようになった。なかでも中国人については、小売業への進出が急速に進んでいる。近年は、西アフリカのムスリム商人が中国製の商品を内陸乾燥地域に大量に輸送しており、以前に増して中国製品を目にする機会が多くなった。西アフリカのムスリム商人たちは、ガーナの中南部の都市クマシにて、中国製の商品を入手し、内陸乾燥地域へと輸送している。多くの場合、ムスリム商人たちは古くからの交易路を通じて商品を内陸乾燥地域へと輸送している。本発表は、西アフリカのムスリム商人が商業ネットワークを域内で構築・拡大させてきた軌跡を概観したのち、そのネットワークを中国商人にまで拡大させていく過程について、一考察を加えることを目的とする。
本発表では、コーラナッツ交易と関わりをもつ西アフリカのムスリム商人のキャリア形成に着目する。ガーナの都市や農村にみられる「ゾンゴ(zongo)」という地区には、多くのムスリム商人が滞在している。そこで取引における中核を担っているマイギダ(maigida)と呼ばれる人びとのなかには、中国商人との交渉を担っている人物がおり、ムスリム商人間では彼らを通じてでないと取引ができないと認識されている。キャリア形成に関する聞き取り調査からは、多くの若手商人が中国人との取引を将来的な目標としているものの、まずはマイギダに接触し、彼らに実力を認められる必要があると考えていることが明らかになった。