日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P032
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発表要旨
1990年代以降の所得と職業構造の分極化に関する地域分析
*上杉 昌也
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抄録

I 研究の目的

 これまでグローバル都市を中心に,職業構造や所得の分極化が議論になってきたが(サッセン2008など),職業構造の転換と所得不平等との関係や,その地域的変化および時間的変化については十分明らかにはなっていない.Hamnett (1996)がロンドンを事例に示したように,職業構造は分極化というよりも専門職化を伴いながら所得の分極化が進むこともあり,福祉国家制度や移民の状況などの影響によって両者の関係は複雑に変化することもある.一方日本でも,上層サービス職の比率が高い地域ほど職業間の賃金不平等が小さいなど,分極化仮説が必ずしも当てはまらないとの指摘もある(安井ら2013).そこで本研究では,バブル崩壊後の1990年代以降を対象とし,職業構造と所得の不平等との関係について地域分析を行う.

II データと方法

 本研究では総務省統計局「就業構造基本調査結果」から,都道府県別に所得・職業別有業者数のデータを用いた.なお本研究で用いた統計表は,統計法に基づいて独立行政法人統計センターから「就業構造基本調査(平成4,14,24年)」(総務省)のオーダーメード集計により提供を受けた統計成果物を基にしている.各年次において所得五分位階級別に職業別有業者数の増減から,都道府県別の地域差を明らかにした.

III 分析結果

 図1は東京都における1992〜2012年の所得五分位階級(Q1〜Q5)別にみた職業別有業者数の変化を示している.この20年間の変化の特徴として,専門・技術職や事務職の増加とブルーカラー職の減少が一貫してみられる.これはグローバル都市である東京に限らず,概ね全国で共通した傾向であり,職業構造の点からは分極化よりも専門職化が進んだといえる.

 所得階級別の観点からは,東京においては総計では中間所得層の一部であるQ4を除いて雇用は伸びており,特に低い階級での伸びが大きい.そして,最も低い所得階級であるQ1での伸びはブルーカラー職よりもサービス職や販売職によるものとなっている.逆に高い階級では,総計での増加は小さいが,専門・技術職や事務職の伸びが目立つ.

 一方,全国的には低い所得階級の増加が東京よりも顕著であり,高い階級になるほど減少傾向となっているなど,国内での地域差も見られた.ただし,この期間には非正規雇用の割合も大きく増加しており,特に低い所得階級でのサービス職や販売職の増加と大きく関連していることが想定される.全国的には継続して専門職化が進む一方で,地域によって所得構造には異なる影響が出ており,その要因となる地域固有の特性にも注目が必要である.

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