日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P022
会議情報

発表要旨
紀伊半島最南部,ドローン測量による海陸統合型の標高データの取得と海岸・浅海底の地形分類
*金 幸隆吉田 大介原口 強
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに

海岸とその付近の浅海域は,陸と海の結節地である.その地域は人々の暮らしに身近であるため,浅海底地形の特徴を詳細に明らかにすることは必要である.浅海底地形や汀線付近の海岸地形は,主に波や流れに伴う侵食と堆積によって形成されるが,海面変動や地殻変動,或いは崩落・地すべりなどでも大きく変化する.筆者はこれまで,過去約0〜103年間の海岸低地の形成過程と上下地殻変動の関連性を地形学的・地質学的な手法で詳細に研究し,相模トラフ沿いで発生する地震の発生間隔とその地域の残留隆起量の相関性があることを定量的に明らかにし,また地震間の沈降と地震時の隆起が過去に繰り返されていることも実証した(金・萬年,2018).しかしながら,地殻変動に伴う沈降量を定量的に見積もることはできなかった.地震・津波の予測を高度化させるために,海岸付近の海面下の地形の形成過程を詳細に明らかにし,その上で地殻の沈降量と海面変動に伴う沈水量をデータに基づき究明させたい.今日まで,海面下の微地形について詳しく分類されている(例えばSunamura,1992;鈴木,1998).本研究では,地形種ごとに地形が形成される水深を明らかにすることを課題に据える.

そのためには,海底地形の高解像度化・高精度化が必要と判断された.その理由は,次の通りである.国土地理院の地形図に記載された等高線は,東京湾平均海面(T.P.)を基準とし,海岸線は満潮時のものである.その地形図の情報は陸域に限られ,地形図から浅海底の微地形を正確に分類することはできない.代わって沿岸海域地形図と海図では,水深1mごとの等深線が示される.それらの基準水準面は,沿岸海域地形図に関してT.P.であり,また海図に関して略最低低潮面である.地形図には,等深線の他に水深の測深値も記されている.また海図には干出岩や水上岩など海岸付近の地形が調べられている.しかしながら,海底地形図の解像度と精度に課題があることを指摘する.海図の測深調査は,沿岸域を対象としていない.また沿岸海域地形図の測深調査は,計画測線に沿って音響測深機を搭載した調査船を航行させて行われたものである.それらのため,公的機関の海底地形データから,海岸付近の浅海底や潮間帯の微地形を正確に分類することは極めて難しい.

そこで本研究は,ドローンを用いた上空からの写真測量の技術を海底調査に応用し,調査船の航行が危険な岩礁地域や砕波帯などを含む浅海底の地形情報を高解像度かつ高精度に広域に得ることを目的として,紀伊半島最南部の串本町で調査を実行した.

2.標高データ取得

RTK(Real Time Kinematics)を搭載した無人小型航空機(UAV)を使用して写真測量を行った.海岸線沿いに8つの基地局を設定し,図1の小さな入江が発達する上浦湾の北部の岩石海岸(A),砂洲の発達する上浦湾の東部の海浜海岸(B),陸繋島として認定されている潮岬に海食崖が発達する岩石海岸(C)を対象に調査を行った.航空写真測量は,それぞれの基地局から半径約1 km内の海域を高度50〜148 mでUAVを飛行させ,約80%の重複率で写真撮影を実施した.尚,基地局にはD-RTKを設置し,UAVの相対位置を追尾している.使用した機材は,ジンバルカメル搭載のDJI製Phantom4-RTKである.

撮影された写真はAgisoft Photoscan Professionalを利用して,SfM(Structure from Motion) / MVS (Multi-View Stereo)法により,14.5〜33.4 cm/pixの解像度,8〜47ポイント/m2の精度で3Dデータを作成することに成功した.その際,写真のアライメントでは,光と波の影響の少ない写真を選別した上で,画像の大きさを1/8〜2倍に変えながらキーポイントを抽出し,タイポイントの三次元座標を作成している.地上基準点(GCP)は,海岸線沿いの一級水準点の標高値を用い,座標系はWGS84を採用し,その楕円体高から国土地理院によるジオイド高を引き算して求めた.その結果,およそ水深10 m位浅で海底地形がマッチングできた海域の地形の情報を極めて良好に取得することができた.

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top