日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P033
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発表要旨
2020年国勢調査の回答状況における都市-農村格差
*山本 涼子埴淵 知哉山内 昌和
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抄録

近年、国勢調査における「不詳」の増加が報告されている。地域分析の観点からは、「不詳」の都市部への偏在が「疑似的な地域差」の観測をもたらす可能性が懸念されてきた(山本ほか 2021)。その原因となる聞き取り率(いわゆる未回収率)は2015年時点で13.1%に達しており、2020年も同水準以上になる可能性が高い。他方、コロナ禍のもと非接触型で実施された2020年調査においては、未回収が従来とは異なる地域で高く/低くなる可能性がある。そこで本報告では、2015年と2020年を比較し、都市部で聞き取り/未回収率が高い傾向が拡大したのかどうかを検討する。

 市町村単位では政令指定都市(東京特別区含む)、都道府県単位では三大都市圏を都市部として、その他の地域と聞き取り/未回収率を比較したのが表1である。ここでは、①総務省統計局国勢統計課提供の 2015 年データ、②総務省統計局「国勢調査2020総合サイト」にある2020年データ(2020 年 11 月 20 日時点参考値)、③埴淵・山内(2019)による2015年データ、④埴淵(2021)による2020 年データを利用した。②は速報的な参考値、また③と④はともに非確率標本に対するインターネット調査であるため、値の厳密な比較は困難である。とはいえ、地域差のトレンドを大まかに比較することは可能であると判断した。

 まず総務省の2015年データでは、都道府県・市町村いずれの単位でも都市部の聞き取り率がその他地域の二倍以上あり、都市化度と強い相関がある。しかし2020年にかけて、都市部の値がほぼ同じであるのに対してその他地域では5%以上の増加となり、結果的に地域差は縮小したようにみえる。ただし2020年の参考値にはまだ調査員回収分が含まれていないため、それが反映されたに過ぎない可能性もある。そこで補足的にインターネット調査による値を比較したところ、値の大きさは異なるものの、都市部とその他の比は2015年よりも2020 年のほうが小さいという同様の傾向が認められた。

 この理由として、コロナ禍の影響で調査員への手渡しによる提出が減少したことが挙げられる。前回まで調査員回収に依存していた地方圏ではそれが困難になったことで未回収が増加し、逆に都市部ではもともと郵送/インターネット回答が多かったために影響が小さかったものと推測される。結果として、2020年国勢調査において未回収(そして「不詳」)の地域差は前回よりも縮小する可能性が高い。このことは、2020 年データにおける疑似的な地域差の観測リスクを下げると見込まれるものの、時系列比較の際にはさらに複雑な偏りを生む懸念もあるため、今後さらなる検討が求められる。

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