日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 367
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発表要旨
沈堕滝の後退による大野川中流域における段丘発達
*高波 紳太郎
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抄録

1.はじめに 大野川は阿蘇カルデラ東方のAso-4火砕流堆積物分布域から大分平野を経て別府湾に注ぐ河川であり,河床にAso-4溶結部が露出する豊後大野市以西の中上流部に沈堕滝や魚住滝といった多数の遷急点を有する.このうち最も下流側に位置する沈堕滝(河口から51.7km地点)は,9万年前にAso-4溶結部の分布限界である大分市竹中付近(河口から19.7km)で形成され,その後現在の位置まで後退してきたと考えられる(高波,印刷中).沈堕滝の下流側では25kmにわたって数段の河成段丘が発達し,その段丘崖にAso-4溶結部が連続して露出する.これらの段丘地形は沈堕滝の後退による河床低下にしたがって形成された侵食段丘と推測されるが,大野川中流域の地形を扱った既往研究(酒井ほか,1993:寺岡ほか,1992:松添,1992)では沈堕滝の後退を想定しておらず,テフラに基づく段丘形成年代の検討も十分になされていない.本発表では露頭調査および文献調査に基づき,沈堕滝の後退を念頭に置いた大野川中流域の段丘地形発達史を議論する.

2.方法 沈堕滝から大分市境に至る大野川の段丘崖において複数の露頭を観察し,露出する地層を記載した.また段丘面上にある考古遺跡の発掘資料を収集して段丘を構成する地層の情報を得た.対象地域では火山灰編年に有用なテフラとして九重第1降下軽石やAT火山灰,鬼界アカホヤ火山灰が知られており(町田,1980),本研究はこれらを手掛かりに段丘面の形成年代を推定した.さらに段丘面下の岩盤がAso-4溶結部である場合は沈堕滝の通過と同時に離水した面と考え,基盤岩(大野川層群)であれば沈堕滝の通過後に段丘化した面と判断した.

3.調査結果とその解釈 ここでは露頭の観察結果および考古遺跡の文献調査結果のうちの重要な地点について説明する.河口から30.8kmにある犬飼リバーパーク管理棟脇の切通しでは,Aso-4溶結部を覆う砂礫層(層厚0.7m)とローム層の下部が露出していたが,テフラ層は確認できなかった.一方,豊肥本線百枝鉄橋から下流へ350mの地点では,Aso-4溶結部(層厚27.9m)の上に砂礫層(層厚3.0m)とローム層(層厚2.7m)がのる右岸の露頭を左岸側から観察できた.この段丘面の高さ(標高120m)は,この露頭から南西に700m離れた岩戸遺跡(河口から49.2km)がのる段丘面に相当する.岩戸遺跡の地層を調査した町田(1980)は地表から3.1mの深さにAT火山灰を認めた(火山ガラスの屈折率測定による)が,九重第1降下軽石層は見出されなかったとしている.河口から32.8kmの地点にある津留遺跡では基盤岩を砂礫層が覆い,層厚1.5mのローム層中には下から0.4〜0.8mの範囲にATと思われるテフラがパッチ状に存在する(大分県教育委員会,2013).津留遺跡のある段丘面は基盤岩の直上に広がっているため,Aso-4溶結部が侵食された後に形成された侵食段丘であると考えられる.

4.段丘面区分と段丘形成年代 大野川中流域にはAso-4溶結部上に発達する段丘面と基盤岩上にある段丘面の二種類があり,段丘面上の代表的な遺跡名をとって高位にある前者を岩戸面,低位にある後者を津留面と仮称する.いずれの段丘面もローム層中にAT火山灰(3.0万年前)を含み,九重第1降下軽石層(5.4万年前)をもたないことから,ともに5.4万年前から3.0万年前までに形成されたと考えられる.したがって,大野川中流域の段丘形成はAso-4堆積から3万年以上経過した後に始まり,AT火山灰降下までには完了していたとみなせる.

5.沈堕滝の後退速度 沈堕滝が九重第1降下軽石堆積からAT降下までの2.4万年間に,少なくとも犬飼リバーパークから岩戸遺跡までの流路長18.4kmを後退したと考えれば,その平均後退速度は0.77m/年と計算される.これは高波(印刷中)で推定された過去9万年間(0.36m/年)の後退速度よりも大きい.以上の結果は沈堕滝が5.4万年前から3万年前に至る期間で急速に後退し,これによって大野川中流域に段丘が形成されたことを示唆する.

文献 大分県教育委員会 2013.津留遺跡:国道326号線道路改良に伴う埋蔵文化財発掘調査.酒井 彰・寺岡易司・宮崎一博・星住英夫・坂巻幸雄 1993.5万分の1地質図幅「三重町」.高波紳太郎 印刷中.沈堕滝(雄滝)の後退速度.地理評.寺岡易司・宮崎一博・星住英夫・吉岡敏和・酒井 彰・小野晃司 1992.5万分の1地質図幅「犬飼」.町田 洋 1980.岩戸遺跡のテフラ(火山灰).坂田邦洋編『大分県清川村岩戸における後期旧石器文化の研究』.443-454.松添澄代 1992.大野川中流域の地形発達.大分地理 6: 51-58.

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