日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 271
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発表要旨
大都市部・中小都市部・農山漁村地域への将来の人口移動
「第8回人口移動調査(2016)」の結果から
*久井 情在
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抄録

これまで「地方創生」「田園回帰」等,都市から農山漁村あるいは大都市圏から地方圏への移住が注目されてきたが,特定の事例や意識調査に基づく議論が中心であり,全国的な状況が把握されているとはいいがたい.一方,国勢調査や住民基本台帳人口移動報告から得られるデータでは,集計単位である都道府県や市町村と,「田園回帰」概念の前提となっている都市/農村の区分とが必ずしも一致しないという問題がある.また,移動理由に関する情報を得られないという限界もある.

 以上を踏まえて本研究では,全国標本調査のデータを用いて,日本国内における都市/農村への人口移動について把握することを目的とする.

 本研究では,国立社会保障・人口問題研究所が2016年に実施した「第8回人口移動調査」の個票データを分析する.この調査では世帯ごとに調査票を配布し,世帯員の移動歴等を尋ねているが,「5年後に居住地が異なる可能性」(問22)についても尋ね,さらに転居予定先を「大都市部」「中小都市部」「農山漁村地域」「その他」「わからない」(問22-2)から複数回答可で選んでもらっている.また転居の理由(問22-3)も尋ねている.本研究では問22と問22-2を合成し,「移動可能性なし」「大都市部に移動」「大都市部または中小都市部に移動」「中小都市部に移動」「農山漁村地域に移動」「その他(「わからない」や「大都市部または中小都市部」以外の複数回答を含む)」の6分類からなる変数「5年後の移動・地域類型」を作成した.そして回答者の個人属性や現住地域,問22-3で尋ねた移動理由といった変数とのクロス集計を軸に分析を行った.

 基本属性との関係では,移動先地域による違いよりも,移動可能性の有無による違いが大きくなる傾向が示された.たとえば,高学歴者の割合を総数と各類型とで比較すると,「移動可能性なし」の場合にのみ割合が小さくなり,他のすべての類型では割合が大きくなる.すなわち,学歴が高いと,移動先がどの地域類型であっても移動可能性が高くなる.

 一方,移動理由については,「大都市部」で「転勤」が,「中小都市部」で「住宅事情」が,「農山漁村地域」で「生活環境」や「親と同居」が,「その他」で「就職」や「結婚」の占める割合が高くなっている.なお,複数回答が反映された類型である「大都市部または中小都市部」は,「大都市部」と「中小都市部」の中間値ではなく「その他」に近い値を示す傾向にある.

 東京一極集中は,入学時や就職時の移動によって進展すると考えられているが,本研究からは,その際に「地域」が当事者に必ずしも意識されていないことがうかがえる.また「田園回帰」等で注目される農山漁村地域への移動においては,いわゆる「田舎暮らし」志向が観察されるものの,今後もUターンが主軸となることが示唆された.

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