主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2022/09/23 - 2022/09/25
1. 研究背景・目的
日本の国土の約7割は山地であり,古くから食糧増産のために山の斜面に棚田や段畑が開墾されてきた.日本の棚田では第2次世界大戦後から稲作の大規模化・機械化が推し進められた. 三重県でも山間に棚田が広がっていたが,戦後の経済成長や減反政策,土地生産性の低さなどから廃れていったと考えられ,放棄された棚田の多くは植林が行われスギやヒノキの人工林となっている.鳥居ら(2006)は高知県土佐町の山間の耕作放棄地での空中写真判読と現地調査から,植林への転換は樹木の成長の面から意義があるとしている. そこで本研究では,津市の経ヶ峰山麓に広く分布する棚田跡に着目して,空中写真判読とGIS解析により,棚田が耕作放棄されて異なる景観(主に人工林)に変化してゆく過程を可視化し,その地形的特徴を明らかにすることを目的とした.
2. 手法・使用データ
本研究では三重県津市の西部に位置する安濃町・芸濃町・美里町にまたがる山地,経ヶ峰(標高819m)山麓の耕作地,耕作放棄地を調査地とした. 使用データは,国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスより該当地域の空中写真(400dpi,一部の年度は1200dpi)を1940年代から2011年まで約10年ごと(1948年,1959年,1968年,1979年,1983年,1992年,2011年)に入手し使用した. これらの写真からAgisoft Metashape Professional を使用して三次元化とオルソ化を行い,年代ごとの耕作地の分布図を作成した.また国土地理院の10m数値標高モデルを用いてArcMapにより地形量(標高,斜面傾斜,斜面方位,凹凸度)を算定し,耕作地の時系列変化との対応関係を調べた. 現在の土地利用について,ALOS利用推進研究プロジェクトが作成した日本域高解像度土地利用土地被覆図【2018~2020年】(バージョン21.11)を使用した.
3. 結果
耕作地は1948年から一貫して減少しており,1948年に452.1haあった耕作地は2011年には186haとなっていた.減少量で比較すると,1968年~1979年までの間が最も多く-61.6haに達し,1年あたりの耕作放棄面積でも-5.6haと最大となっていた. 耕作放棄地と地形量の関係について,1948年の耕作地の標高と斜面傾斜の頻度分布を基準に,以降の各年代で耕作地が地形量に対してどのように減少し、耕作放棄されていったかを比較した.1979年までは減少した耕作地の7割以上が1948年の耕作地の標高と斜面傾斜の中央値よりも大きい範囲にあった.さらに,1948年と2011年の耕作地の比較では,標高でみると60%以上、斜面傾斜でみると75%以上が1948年の中央値以下の範囲にあり,高標高,急傾斜の地域のほとんどが耕作放棄地となった. また,本研究では現在の土地被覆分類図で常緑針葉樹林を人工林として判別し解析をした.1979年までの耕作放棄地は6~7割ほどが人工林となっており,人工林への転換が主に進んだ地域となっていた.一方で1979年以降の耕作放棄地は人工林よりも竹林の割合が増加しており,耕作放棄地の2~3割を占めていた.
4. 考察
経ヶ峰山麓では,減反政策や圃場の大型化に対応できず土地生産性の低い高標高・急傾斜の棚田から人工林への転換が進んだと考えられた.また,耕作放棄は標高よりも斜面傾斜に強く依存していると考えられた.1980年代以降は高齢化や担い手の減少により,標高の低い比較的耕作のしやすい土地でも放棄が進んだものとみられる.近年では植林はあまり行われず,放棄されたまま竹林が侵入・拡大していると考えられる.