日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 212
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発表要旨
新型コロナ外出自粛で都市の気候はどう変わったか?
都市気候モデルと地理的ビッグデータの融合による新推定
*高根 雄也中島 虹亀卦川 幸浩
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抄録

1.はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大は,世界中の人間の行動を劇的に変えた.世界の多くの都市はロックダウンされ,国内では緊急事態宣言の発出により,外出が大規模に自粛された.このようなロックダウンや外出自粛により,大気汚染物質の減少や温室効果ガスの減少が多数報告されている.一方で,ロックダウンや外出自粛は人工排熱を低下させ,気温へも影響も与えると推察されるが,その報告例は僅かである.

 Fujibe (2020)では,気象庁アメダスによる観測値に基づき,新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛(以降,単に外出自粛と呼ぶ)が気温へ及ぼす影響について統計的に調査した.Nakajima et al. (2021)では,外出自粛に伴う人間活動の変化により,大阪市の気温が0.1℃程度,電力消費量が40%程度低下したと指摘している.しかし,この推定は実際の外出自粛期間ではないため,実際の外出自粛期間中での評価が望まれる.

 本研究では,実際の外出自粛期間における首都圏を対象とした外出自粛の気温・電力消費量への影響について報告する.

2.結果

 2020年の1回目の緊急事態宣言期間中(2020年4月18日〜5月14日)の人口と2019年の同期間の人口の比によると,東京の都心では顕著な人口の減少が見られる一方,その周辺部は人口変化が少ない地点や増加している地点がある(図1左).交通量の2020年・2019年比では,都心を中心としてその周辺でも交通量が減っている(図1中).これらの人口比および交通量比を都市気候モデル(CM-BEM)に入力し,外出自粛が気温等へ及ぼす影響を推定した(以降,詳細はTakane et al. 2022を参照されたい).

 その結果,外出自粛により都心業務街区では電力消費量が6-7割減少した一方で,その周辺の大部分の住宅地では微増したと推定された.この電力消費量の変化は主に人口変化比から算出した建物内の電力消費量のベースロード値の変化の結果である(上記外出自粛期間中は空調を使用しないため).図1右は,外出自粛の気温への影響を示している.都心業務街区の東京駅周辺では日中平均で最大0.2℃程度の気温低下が計算されている.一方で,郊外の気温変化はわずか(ほぼ無視できる程度)である.なお,都心部の気温低下量は,Fujibe (2020)による東京の気温低下量の推定値0.40±0.21℃と整合的である.

 なお,エアコンを使用する夏季を対象に,上記4-5月と同様の行動変容の影響を推定したところ,上記都心部での気温低下量は0.3℃程度となった.この気温低下量は,従来のヒートアイランド対策(緑化,高反射塗料)と同じオーダーである.

 今後は,行動変容の影響を年間で推定するために,暖房需要のある2回目の緊急事態宣言時の評価を行う.これにより,外出自粛の気温・電力消費量への影響の季節性や地理的な相違を把握するとともに,外出自粛のような人間行動変容が,気候変動時代における都市部の気候変動適応策になり得るかどうかを推定する.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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