日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P024
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発表要旨
フィールド観測とGPSによる漁場利用調査の実践
北海道寿都町のナマコ漁業を事例として
*松井 歩崎田 誠志郎佐川 正人
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抄録

報告の背景

 本報告では北海道寿都町におけるナマコ漁業を事例に,フィールドでの風向・風速の観測とGPSロガーの設置・乗船調査による漁業活動調査を組み合わせた研究実践について予察的に報告する.近年の自然資源利用研究では自然環境と人間社会の相互関係において地域の特徴を捉える視点が主流となりつつある.漁業地理学を中心とする先行研究群においてもこれまで陸域(漁村)と海域(漁場)の統合的な研究の必要性が繰り返し指摘されてきたが,陸域の生業に比べて,漁場環境や漁撈活動の調査が著しく困難であるという方法上の問題が障壁となってきた.

 本報告が事例とするナマコ資源は1980年代以降,中国における需要の高まりをうけ,資源の開発が世界中で急速に進展した.結果として資源の過剰利用や枯渇が相次ぎ,持続可能な資源利用および管理が問題化されている.日本においても,国内漁業の縮小がすすむなか,中国市場の需要をうけるナマコ漁業の活況が続いている.特に本報告で取り上げる北海道,特に南部日本海側において水揚げされるナマコは審美性の観点から中国市場での評価が高く,高価で取引される傾向がある(崎田・松井 2022).

寿都町におけるナマコ漁業と局地風

 寿都町におけるナマコ漁業では6月中旬から7月末が中心的な漁期となっている.漁獲方法は桁引き漁業,潜水漁業,そしてタモ・ハサミを用いる直接採捕が主であり,本研究では漁獲量の大半を占める桁引き漁業および潜水漁業を対象としている.

 現地におけるナマコ漁業操業の重要な要素として,風と出漁の関係があげられる.寿都地方ではナマコ漁期と重なる例年5月から7月頃にかけて南ないし南東寄りの局地的な強風が吹走する(佐川 2004).これまで実施した予察調査においては,特に重量のある桁網を曳航する桁引き漁にとって強風は操業可否に大きな影響を与えることが明らかとなっている.その一方で湾という地形的条件からその影響の大きさは各地区によって異なり,風向によって影響を受けやすい地区,受けにくい地区が存在する.また,風の強い日には影響を受けづらい場所を選んで操業する等の対応がとられる場合もある.ここから,具体的な操業データとミクロな風向風速データを取得し,統合的に分析することで自然環境と人間社会を接続した漁場利用・管理システムのより詳細な理解が可能となることが期待される.

研究の方法・概要・結果

 以上をうけ,本研究では①桁引き・潜水漁船14隻へのGPSロガーの設置および乗船調査による操業データの収集,②寿都町沿岸部の3漁港および一般場1ヶ所への風向風速計の設置・観測,③漁協保有資料である水揚台帳の集計を実施している.

 ①について,GPSロガー(GT-600, Mobile Action製)をナマコ漁船14隻(寿都漁港9隻,有戸漁港1隻,横澗漁港4隻)に設置するとともに,乗船調査による操業観察をもとにログデータの解釈を進めている.②について,本研究では2022年6月15日から同年7月30日までの期間,3漁港(寿都漁港,有戸漁港,横澗漁港)および一般場として朱太川河口部の計4ヶ所に風向風速計(KADEC21-KAZE-CおよびKDC-S04,ともにノースワン製)を設置し,10分間隔での定点観測を実施している.

 7月16日まで計65回分の出漁データが得られている.報告では全漁期を通しての風向風速観測データ,GPSログデータおよび水揚台帳の集計結果をふまえつつ,調査結果について速報する.

参考文献

佐川正人 2004. 北海道寿都地方の強風域における風向・風速の特徴. 地理学評論 77: 441–59.

崎田誠志郎・松井 歩 2022. 北海道南西部におけるナマコブームへの多様な適応・活用戦略. 地域漁業研究 62(1): 19-30.

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