日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 534
会議情報

発表要旨
東京都新大久保地区におけるエスニック・タウンの多民族化と混成化
*申 知燕野村 侑平宋 弘揚廣野 聡子呉 鎮宏
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに  国際移住の増加と多様化は,都市におけるエスニック空間のあり方に変化をもたらしている.伝統的な移民研究では,移住者を先進国での永住を試みる労働移民として捉え,先進国の大都市に辿り着いた移住者がホスト社会に適応するまでに同じ民族同士で集まり,エスニックな資源を活用しながら一時的にとどまる空間をエスニック・タウンとみなしてきた.しかし,グローバル化の進展に伴って移住者は増加し,質的にも多様化してきている.また,移住者のみならず,ホスト社会の住民が外国人や外国文化に触れる機会も増加し,エスニック・タウンとの関わりも多くなっている.これらの状況に対応してエスニック・タウンの規模や機能,役割も変化すると考えられるが,日本の場合,欧米都市に比べて移住者人口が占める割合が非常に低く,多文化共生に関連する状況も欧米社会とは異なるため既存の欧米を対象とした移民研究では捕捉されないエスニック・タウンの様相がみられると考えられる.とくに,2020年から続く新型コロナウイルス感染症の影響により,日本のエスニック・タウンはインバウンドの影響がほぼない状況となっており,エスニック・タウンと日本人もしくは中長期在留者とのかかわりがみえやすい状況となっている. 2.研究の目的および事例地域の概要  2021年末の日本における外国人人口は約276万人であるが,そのうち約4割にあたる112万人が一都三県に居住しており,外国人人口の首都圏への集中が著しい.なかでも,東京都における外国人人口は約52万人であり,そのうち約3万4千人が新宿区に居住している.その新宿区には,新大久保地区(百人町一丁目,百人町二丁目,大久保一丁目,大久保二丁目)を中心に大規模なエスニック・タウンが形成されている.同地区は,1980年代から,日本語学校が多く立地したことや,歌舞伎町で働く外国人出稼ぎ労働者のベッドタウンとなったことにより外国人の集住がみられたが,2000年代以降の韓流ブームをきっかけに急激な観光地化が進み,日本人顧客に向けたコリアタウンとしても広く知られるようになった.しかし,同地区には,近年来日した韓国人ニューニューカマーに向けた商業施設も存在するほか,中国・ベトナム・ネパールなど,韓国人以外の外国人に向けたエスニック・ビジネスも多数立地しており,多国籍なエスニック・タウンとしての側面を強めている.このような,多国籍タウンとしての新大久保に関しては先行研究においても言及されているが,その具体像に関する研究は未だ乏しく,丹念な調査が必要である.  そこで,本研究では日本における代表的なエスニック・タウンである新大久保地区を事例とした調査・分析を通し,現代日本におけるエスニック・タウンを支える背景構造の解明を試みた.具体的には,新大久保地区の商業施設立地および業種から,多国籍化するエスニック・タウンの現状とその背景を明らかにしようとした.本研究にあたっては,2022年3月に商業施設を対象とした現地調査を実施し,店舗分析を行った上で,先行研究や各種人口統計との関連性を把握した. 3.知見  本分析から得た知見は以下の3点である.  1点目は,新大久保地区におけるエスニックな商業施設は多民族化が進んでいることである.依然として韓国系商業施設が多数を占めてはいるが,中国系・ベトナム系・ネパール系店舗も多くみられ,その立地も完全なセグリゲーションではなく,暗黙的な民族的境界を超えた店舗立地も確認できる.  2点目は,商業施設のターゲット層は,同胞向け・日本人向けの二分法ではなく,より多様なエスニシティやバックグラウンドをもつ人々に対応することを念頭に置くなかで質的に多様化している点である.店舗と顧客のエスニシティが多層的に交差するなかで,多民族的かつ混成的な商業施設が増加しているのである.このような様相は,グローバルシティであるにもかかわらず外国人人口が多くない東京において,エスニック・ビジネスを営むための立地・経営戦略であるとも考えられる.  3点目は,現在新大久保地区に立地しているエスニックな商業施設からは,外国人の中でも中長期在留者の生活が浮き彫りになる点である.2020年から続く新型コロナウイルス感染症の影響により,観光客や留学生が急減し,人的交流に関わるビジネスの事業拡大も難しくなっている.そのため,新大久保においても,訪日外国人観光客がほぼいなくなった2022年現在,日本人もしくは中長期在留者の生活に根ざした商業施設がエスニック・ビジネスの中心になっていることがわかる.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top