日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P016
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発表要旨
香川県豊島における現存する井戸の分布及び特性と水道導入後の井戸の利用機会
*八塚 正剛石塚 正秀村山 聡寺尾 徹
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抄録

1. 研究の背景と目的  

 一般に,島嶼部では雨水の集水面積が小さく,河川等の地表水系から常時, 水を確保することが難しいことから,水不足・渇水に陥りやすい。加えて,瀬戸内海の島嶼部では, 気候的条件では少雨,地質的条件では保水性の低い花崗岩が分布していることから,水不足のリスクがより高い地理的環境にある。そのため,多くの島では,淡水資源を安定的に得るために,雨水を活用したため池が利用されている。 

 一方, 香川県土庄町豊島 (面積: 14.4 km2) では,1994, 1995年の異常渇水時にも涸れることなく湧き続けた湧水「唐櫃の清水」をはじめ, 他の瀬戸内海島嶼部と比較して水環境が特異であり, 豊富な水資源を有する。例えば,水を多く消費する水田 (棚田) が分布している。また,水道導入以前には,湧水の他, 主に井戸が生活用水源として活用されてきた。しかし, 過去に豊島の井戸に焦点を当てた詳細な調査は実施されておらず, 豊島の水環境の特異性を示す研究資料がなく,不明な点が多い。そこで,本研究では, 豊島の井戸の分布とその特性を明らかにするとともに, 水道導入後の井戸の利用機会の変遷を分析することを目的とする。

2. 調査方法  

 2020年以降, 計7回, 現地調査を実施した。現地調査では, 井戸の分布や数を確認すると同時に井筒の材質及び形状や直径, 井戸の構法などの特性を確認した。さらに, 井戸を所有し, 実際に活用してきた高齢世代を中心に井戸の利用機会に関するヒアリングを行った。

3. 調査結果及び考察

3-1. 井戸の分布と特性  

 2022年7月時点において, 豊島全域で70基以上の井戸が確認された (図1) 。しかし, 全件調査が実施できていないことから, さらに多くの井戸が存在する可能性がある。また,井戸は平地の集落(家浦浜, 唐櫃浜など)だけでなく, 海抜100 m 以上と標高の高い唐櫃岡地区にも立地する。唐櫃岡には湧水「唐櫃の清水」, 棚田も立地することから, 地すべり地形が地下水の浸透・貯留に強く寄与している可能性がある (Yatsuzuka et al., 2022)。

 井戸の構法は, いずれも掘井戸であり, 直径は80 – 100 cm程度である。井戸内部は井筒を重ねた側付き井戸, 石垣を組んだ石積み井戸の2種類が確認された。井筒の素材は, 花崗岩製, コンクリート製の他, 現地豊島で産出され, 柔らかく加工も容易な豊島石 (角礫凝灰岩) も存在し, 地元の石材業との関連も示唆される。

3-2. 豊島における水道の導入と水道導入後の井戸の利用機会

 「離島に光と水」を合言葉に離島部の水道導入の契機となった「離島振興法」制定の2年後 , そして土庄町との合併と同年の1955年に家浦地区 (豊島の人口集積地区) を皮切りに豊島島内に水道事業が導入された。豊島の水道普及率は1970年の時点でも約半数 (44.6%) に留まるが, 1980年までのわずか10年間で水道普及率が95% と急速に水道が普及した (日本離島センター, 1970-2010) 。この水道普及率の上昇と対応して, 井戸の利用機会は減少し, 生活用水源としての地位が低下したと考えられる。また, 住民へのヒアリングから, 水道の通水と同時に, 一部の井戸水に含まれる大腸菌, カナケなどの水質への不安, 定期的な水質調査の必要性から飲用用途としての利用機会が減少したとの証言を得た。しかし, 現在でも,井戸を全く使用しなくなったわけではなく, 井戸横に電動井戸ポンプや洗い場を併設し, 主に屋外での水利用 (農機具の泥落とし, 草木の水やり) 用途の水源として活用されていることがわかった。

謝辞 

 本研究は, 公益社団法人日本離島センターの「離島人材育成基金助成事業 (研究助成型) 」を活用した研究成果の一部である。

参考文献 

日本離島センター 1970-2010. 『離島統計年報』.

Yatsuzuka, M. et.al. 2022. Study on Dug Well Distribution and Water Balance in Teshima Island: Environmental Humanities and Hydrological Perspectives Journal of Kagawa University International Office, 14: 1-6.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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