はじめに
島原湾(有明海)は九州最大の内湾であり,河川の河口部には筑紫平野や熊本平野に代表される臨海平野が形成されている.これらの臨海平野の地形発達については,陸上(沖積低地)におけるボーリング調査等にもとづく検討が進められてきたが,沿岸域における地形発達過程をシームレスに理解するためには,その海域延長部を含めた検討も重要であると考えられる.島原湾においては平成21年度,令和元〜3年度に海底活断層調査が実施され,音波探査や海上ボーリング調査が行われた.本発表では,島原湾に分布する雲仙断層群(南東部)の近傍で実施された海上ボーリング調査の結果の概要と,陸域を含めたデータにもとづいて熊本平野とその海域延長部の発達過程を検討した結果を報告する.
海上ボーリング調査の概要
雲仙断層群南東部(海域部)の活動性を明らかにすることを目的として,断層の低下側(UTO1:水深46.69 m)および隆起側(UTO2:水深33.07 m)において海上ボーリング調査を実施し,それぞれ長さ40.00 mおよび35.25 mの堆積物コア試料を採取した(文科省・産総研,2020).採取された堆積物コア試料を対象に,肉眼観察,放射性炭素年代測定,火山灰分析にもとづいて,層序を検討した.UTO1地点においては,海底面下18.80 mまでが主に完新世の年代(1.42-11.73 ka)を示す海成堆積物,29.90mまでが後氷期の年代(13.18-16.57 ka)を示す陸成の細粒堆積物,33.20 mまでがいわゆる基底礫層に対比される砂礫,44.00m までは最終氷期最盛期(LGM)に相当する年代(22.49 ka)を示す有機質堆積物およびAT火山灰を挟在する陸成の細粒堆積物によって構成されている.UTO2地点においては,海底面下5.20 mまでが後氷期の年代(3.17-18.23 ka)を示す堆積物,8.15 mまでがLGMに対比される可能性のある砂礫,14.80 mまではAso-4の火砕物,35.25mまでは最終間氷期の細粒堆積物によって構成されている.既往研究では,本海域における完新世の堆積物の層厚は10 m程度と推定されていた.海上ボーリング調査の結果,断層の低下側では沖積層の層厚が約30 mに達していることや,断層の隆起側におけるAso-4の分布高度などが明らかになった.
熊本平野(白川・緑川デルタ)とその海域延長部の発達過程
海上ボーリング調査(UTO1地点)と既存の陸上ボーリング調査(KA-1地点:産総研,2016)の結果,ならびに土木ボーリング資料(国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」)から,熊本平野から島原湾に至る地形・地質断面図を作成した(図).詳細な堆積年代が求められている地点はUTO1地点およびKA-1地点に限定されるが,これらの地点における堆積年代をコントロールポイントとして,現在の地形および一般的なデルタのプロファイルを参考に,1,000年毎の同時間面を推定した. 復元した地形・地質断面図(図)から,一連の堆積体の発達過程を検討できる.島原湾では,後氷期の海水準上昇開始(16.5 ka)前後から細粒堆積物の形成が開始しており,12 ka前後に内湾化した後,海域の拡大(海岸線の陸側への移動)に伴って8 ka前後に堆積速度が急減している.内陸部(KA-1地点)に分布する海成砂層(7.99-7.24 kaの年代を示す)は,後氷期の海進に伴う海域の拡大範囲がこの地点に達していたことを示す.島原湾では,8ka前後から砂質な堆積物が分布しており,8 ka以前に形成された沖積層を侵食する谷状の地形が発達している.これらは,海域の拡大に伴って増大した潮流の営力によって海底面が侵食され,海底面で生産された粗粒な砕屑物が二次堆積したことを示唆している.
謝辞:本研究の実施にあたり,文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査」の一環で取得したデータを使用させていただきました.
参考文献:産総研 2016.「地域評価のための活断層調査(九州地域)」平成27年度成果報告書.文科省・産総研 2020.「活断層評価の高度化・効率化のための調査」令和元年度報告書.