日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P026
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発表要旨
防災のための宇宙技術の利活用
*池田 誠
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抄録

災害が発生した際には、緊急支援活動や復興復旧のため、速やかに被災地の状況を把握する必要がある。しかしながら、アジア地域において甚大な災害が発生した場合、日本のように被災地を撮影する航空機を使用することが難しい場合が多い。また、豪雨による洪水など、被害が拡大した際は、正確な被災地域を迅速に把握することは困難で、大きな課題となっている。

そこで、宇宙技術を活用した防災分野への貢献、地球観測衛星によって取得された衛星画像や、衛星画像を用いた解析図の提供は、この課題を解決する大きな手助けとなる。

アジア太平洋域の自然災害の監視を目的とした、国際協力プロジェクトである「センチネル・アジア」は、同地域において災害が発生した際に、地球観測衛星を保有する日本、ベトナム、タイ、台湾、インド、シンガポール、アラブ首長国連邦などと連携し、災害時において衛星画像が撮影され、提供されている。また、アジア工科大学を中心とした研究機関が、提供された衛星画像を用いて解析図を作成し、被災国及び被災地域の関係機関にデータ提供を行っている。これら提供されたデータが、迅速な緊急支援活動や復興復旧活動に、役立てられている。この、「センチネル・アジア」を通じたデータ提供に関する支援活動は「緊急観測」と呼称され、2007年から活動が開始された。2020年12月時点において、341件の災害発生に対して、衛星画像や解析図のデータ提供が行われてきた。災害種別では洪水が48.9%と最も多く、地震が13.4%、地滑りが7.0%である。時期的な特徴としては、7月か10月の雨季におけて対応が集中している。国別でみると、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国に対する対応件数が多い。これは、東南アジア諸国が他の地域(東アジア、南アジア、中央アジア、太平洋島しょ国など)と比較しても、災害の発生する頻度が高いこと、また、発生する災害の種類の多岐にわたることが原因であると考えられる。

他方、災害時においてデータ提供が行われる一方で、解決すべき課題がある。ひとつは、アジア各国における研究機関と防災機関との連携である。上述した、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどは、国としての規模が大きく、災害頻発国であるという背景から、宇宙技術を防災分野に活かす、リモートセンシングや地理情報システム(GIS)に関する、大学等の研究機関での活動が比較的活発に行われている。また、国の公的機関として防災に関する省庁(例えば、防災省、防災担当局)が存在し、災害時の緊急対応や、啓発等の防災活動が積極的に推進されている。これら研究機関や防災担当部局の連携が強い国々がある一方で、アジアにおいては、関係機関の連携が不足している国や地域も多くある。これにより、提供されたデータが適切に共有されず、被災地にフィードバックされないという現状もある。もうひとつの課題は、提供されるデータに要する時間である。近年においては、データが提供されるまでの時間は改善傾向にあるが、それでも、災害発生から解析図が現地機関に提供されるまで、おおよそ5日の時間を要している。これは、災害発生から被災地の現地情報を得る時間を必要としていること、また、衛星画像を取得後に解析図を作成するデータ分析の時間を要していることが原因として上げられる。災害時においては、現地防災担当機関は支援活動等に多くの時間を要するため、国や地域を越えた、横断的な国際的連携の仕組みを強化することが重要であると考えられる。

このような状況を鑑みて、現在においては、「センチネル・アジア」に参画している宇宙機関、大学の研究機関、各国防災担当機関は、国際会議を通じた情報交換や、初動手順書(SOP)の策定など、積極的な活動を行っている。且つ、被災地調査がより困難となっているコロナ渦において、リモートセンシング技術の有効的活用について認識を深め、「センチネル・アジア」の活動の重要性が周知され、よりよいネットワークの構築が進められている。

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