日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 638
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発表要旨
経路ネットワークに対する前処理による時空間アクセシビリティ計算の効率化とその実装
*増山 篤
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抄録

買い物、医療受診、娯楽などの活動機会を提供する施設へのアクセシビリティは、常に地理学と隣接する分野における重要な関心事であり続けてきた。具体的には、近づきやすさの程度を計量的に把握するためのさまざまなアクセシビリティ指標が提案されてきた。そして、実社会における近づきやすさに関する不公平や課題を解き明かすべく、さまざまな場所に対してアクセシビリティ指標を算出する実証研究が行われてきた。 アクセシビリティを左右する要因はいくつか考えられる。アクセシビリティ指標は、特に重要な要因を適切に組み入れた形で定式化される必要がある。私たちの生活は、一定の時刻までに自宅を出発し、一定の時刻までに職場や学校に到着しなければならない、といった時空間制約下におかれており、アクセシビリティはこれに大きく左右される。以下、時空間制約を考慮した指標を「時空間アクセシビリティ指標」と呼ぶことにする。 時空間アクセシビリティ指標を実証研究で用いるとなると、さまざまな場所に対してその値を繰り返し算出することになる。その際、時空間制約下にある個人に関する現実を反映させる必要がある。特に、私たちの移動行動が道路・交通網に規定されていることから、経路ネットワークを考慮すべきである。施設に関しては、その運営時間を考慮する必要がある。 また、時空間アクセシビリティ指標値の繰り返し算出は、可能な限り少ない計算量で実行できることが望ましい。特定の場所について時空間アクセシビリティ指標値を計算するには、そのときの時空間制約下で到達できる施設を特定したり、その施設で最大滞在可能な時間を算出したりする必要がある。その際、経路ネットワークを考慮するとなれば、何らかのネットワークアルゴリズムを実行することになる。特に工夫しない限り、時空間アクセシビリティ指標を多数の場所に対して計算するとなれば、その都度、Miller (1991) で提案された方法などのネットワークアルゴリズムを実行し直す必要が生じ、いかにも計算量が膨らむ。 さらに、時空間アクセシビリティ指標値の算出方法は、広く利用可能な形で実装できることが望ましい。特に、研究の再現性の担保という観点から、オープンな計算環境下でどのように実装されるかを明らかにすることが望ましい。 Delafontaine et al. (2012) などのいくつかの先行研究では、経路ネットワークを考慮した時空間アクセシビリティ指標を計算するためのアルゴリズムがいくつか提案されている。ただし、いずれのアルゴリズムも、活動機会を提供する施設の運営時間を考慮しなかったり、多数の場所について指標値を計算する際の効率性という視点に欠いたりするなど、改善や拡張の余地を残す。 多数の場所に対して時空間アクセシビリティ指標を算出した実証研究はこれまでにも少なからずみられる。これらでは、計算量が極度に嵩むことに言及していたり、分析が限定的・近似的なものとなることを余儀なくされたりしている。今後もこのような実証研究がますます重ねられるためには、時空間アクセシビリティ指標値の効率的な算出方法とその実装の詳細を明確化することが求められよう。 この研究では、経路ネットワークに対する前処理を行うことで、道路・交通網と施設の運営時間を考慮し、時空間アクセシビリティ指標を多数の場所に対して効率的に計算する方法を示す。また、この方法を、オープンソースプログラミング言語Pythonによって実装したケーススタディを示す。

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