主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2022/09/23 - 2022/09/25
1. はじめに
夏季晴天日の関東地方平野部においては,猛暑日や熱帯夜の増加など,日中夜間ともに近年の高温傾向が顕著である.気温分布に影響を及ぼす大きな要因として海陸風や山谷風などの局地風系が挙げられる.関東平野の局地風系は,日本付近の気圧傾度とも密接に関係し,夏型気圧配置の出現頻度増加と関連した高温への関与も指摘される.しかし,局地風系や気温分布に及ぼす気圧配置型変化の影響は明らかとなっていない.本研究ではこれらの解明に向け,長期間の高密度な地上観測資料を用いて,夏季晴天日における局地風系の日変化パターンを示し,関東付近における気圧場の特徴および近年の変化について検討した.
2. 資料と方法
気象庁アメダスに加えて,自治体の大気汚染常時監視測定局(常監局)237地点における風向風速の毎時値を用い,1978年から2017年まで(40年間)の7,8月を対象とした.前回までの報告(2022年春季大会 P023)と同様に,地点情報の収集や風速の高度補正,品質管理を行って,長期に使用できる地上風データを整備して用いた.地上風は,対数則に基づき統一高度(10 m)の風速に補正し,格子点に内挿して平滑化を行い,収束・発散量を求めた.
対象日として,晴天で一般場の気圧傾度が小さく,典型的な局地風系の出現が期待される晴天弱風日の抽出を行い,気圧傾度と日照時間の条件から492日を選んだ.
3. 晴天弱風日の分類と風系の特徴
平野部における毎時の発散量を用い,晴天弱風日日中(9時~19時)を対象に,ラグを-2~+2時間とした5つの時系列に対して,拡張EOF解析を適用した.その結果,上位(第1~3)の各主成分の負荷量分布および主成分得点の日変化は,晴天弱風日に特徴的な収束・発散場とそれぞれよく対応していた.日ごとに差異のある風系の特徴を系統的に検討するため,毎時の主成分得点(第1~3主成分)に対してクラスター分析(Ward法)を適用し,晴天弱風日をA~Eの5類型に分類した.コンポジット解析の結果,Eは東風が関東平野に広く卓越する分布となるが,A~Dでは,午前中には沿岸部で海岸線に直交する海風がみられ,午後になると,広域海風の発達とともに全域で南~南東寄りの風向に変化した.海風前線の内陸への侵入や南寄りの広域海風の発達はAで最も早く,B,C,Dの順に遅くなった.また,期間を10年ごとに分けて各類型の出現頻度を求めたところ,南風が卓越するA,Bは近年増加傾向にあった.
4. 気圧場の特徴
各類型における気圧配置を,JRA-55長期再解析を用いて検討したところ,A,Bでは日本の南への太平洋高気圧の張り出しが晴天弱風日の平均よりも強かった.また,午後には中部山岳域に熱的低気圧が発達し,関東南岸の気圧傾度はAで最も大きかった.平野スケールの気圧場を検討するため,内陸地点を含む関東周辺の気象官署(前橋,水戸,網代,勝浦)における09時と15時の海面気圧から地衡風を算出した.各類型は特に地衡風の東西成分との関係が認められ,熱的低気圧に伴う気圧傾度に高気圧の張り出し方による南岸の気圧傾度が加わり,一般風の向きが変化すると考えられた.各年の晴天弱風日における地衡風向の出現頻度は,09時と15時ともに2010年以降に平均より西寄り風向の日がやや多く,気圧配置の出現頻度に対応してA,Bの頻度増加にも関連すると考えられた.一方,15時の地衡風速は1990年以前に弱く,それ以降ではやや強い傾向にあった.この傾向は09時には不明瞭であり,日中の熱的低気圧の強まりによる影響も示唆された.
今後,風系型や気圧場の近年における変化に加え,気温分布との関係についても検討したい.