主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
1.はじめに
1992年の改正生産緑地法による最初の生産緑地指定から30年を経た指定解除により,三大都市圏の市街化区域に大量の農地転用が発生することが懸念される「生産緑地2022問題」の当該年を迎えることとなった.この問題に対して,国土交通省は,①2017年施行の新生産緑地法による特定生産緑地制度の創設,生産緑地指定・行為要件の緩和,②2018 年施行の都市計画法改正による新たな用途地域である「田園住居地域」新設などの諸制度の整備による対応を行っており,「2022年に該当する生産緑地のほとんどが一斉に宅地化するようなことはない」(塩澤 2020)との指摘もある.
しかし,三大都市圏内での市街化区域内農地の活用実態は,地理的位置,農業経営,都市計画指定状況により,相当に異なると考えられる.本報告では、「生産緑地2022 年問題」に直面する関西大都市圏の一小都市である京都府八幡市の農地所有者を対象に,前期の問題に対応する新たな都市農地制度への認識・意向についてのアンケート調査結果を中心に,都市内農地の今後の保全の課題について述べる.
事例とした八幡市は,人口約7.2万人で,京都府南部,大阪府と接し,ほぼ大阪市・京都市の中間に位置し,京阪本線など交通の利便性により,通勤型の住宅都市となっている. 一方で,市の中央部から東部にかけては,農振農用地指定された水田・畑地を中心に約500haの農地が拡がる.都市計画指定状況では,市西部から南部に市街化区域が指定され,小規模の無指定農地と生産緑地指定農地が混在する.中央部と石清水八幡宮周辺には市街化調整区域が指定されており,前述の広い農地が展開する.
2.調査方法
1)八幡市と京都府内特定市9都市及び京阪本線沿線4都市との都市農地・農業指標を比較し,八幡市の都市農地・農業の実態・特性を導出.
2) 2021年11月にJA 京都やましろ・八幡市管内の農地所有者に「生産緑地2022問題」に対応した都市農地制度について意識・意向を尋ねた,直接配付・直接回収による紙面アンケート調査を実施した.設問項目は,①現在の農地・農業実態と今後の意向,②田園住居地域の評価,③市街化区域内農地の今後の活用方法,④生産緑地の現在の状況,⑤特定生産緑地の評価である.なお回収数は 46 通であった.
3.調査結果概要
八幡市の市街化区域内農地面積は,京都府特定市10市のなかで,京都市を除く9市と大きな差はないが,市街化区域内農地に対する生産緑地面積割合は約34%で下位に位置する. アンケート調査結果からは,①農業後継者が不在・未定との回答が8割を超える,②営農上の課題として,農業機材等の金銭的負担が9割を超えているが,主として市街化調整区域農地の課題と捉えられてる,③今後の農地の意向では,「現状維持」との回答が ほぼ2/3を超え,その理由として、「先祖の土地の保持」、「評価税上の関係」など上げられる,また今後の農業意向では、「今までと同じやり方、同じ生産物で農業を続ける」が 8割を超えており,積極的に農業を拡大する農地所有者はほぼ皆無である.④市街化区域内農地の所有状況では、1/3を下回り,今後の活用意向として、「自身で耕作を続けるため農地をこれからも所有する」が 11人中8人の回答が得られた。⑤生産緑地に着目すると、市街化区域内農地所有者9名のうち、所有者は5名 ,特定生産緑地については、「市街化区域内農地の一部を申請する」が2人のみであり,指定理由としては税制優遇が主で、指定しない理由では営農が継続できない,との回答であった.
この結果から,八幡市の農業の中心は市街化調整区域農地であり,市街化区域内農地の農業的利用意欲が極めて低いことが明らかになった。 同様の実態にある都市は相当数存在することが予想され,これらの都市では,農業利用以外の農地の多面的機能に基づく保全の方向,施策の検討が課題となるであろう.