日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P007
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山陰地方西部沖に分布する海底段丘と発達過程
*後藤 秀昭
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抄録

1.研究の背景と目的  海成段丘は,沿岸の地殻変動を地形学的時間スケールで検討する重要な指標として研究され(吉川ほか,1964など),隆起様式の違いなどが検討されてきた(小池・町田編,2001など)。一方,海成段丘と同様に海岸で形成された後,沈水して形成された海底段丘についても検討されてきた(茂木,1980,八島・宮内,1990など)が,情報が乏しく,精度や広がりに限界があり,研究の蓄積に乏しい。近年,マルチビーム測深機の普及により高解像度な海底地形の数値データが取得されるようになり,海底段丘を用いた変動地形研究も行われるようになった。沿岸陸域に分布する海成段丘が小規模で地殻変動がよくわかっていなかった場所でも,氷期の低海面期に形成された海成段丘の分布と深度を明らかにすることで地殻変動を読み取ることができると考えられる(Goto, 2021)。そのためにも,高解像度な地形データで読み解ける沿岸海域の海底段丘の特徴や深度を多様な地域や環境で研究する必要がある。そこで,本研究では山陰地方西部の角島沖の海底地形を分析した。この付近には北西−南東走向の活断層である神田岬沖断層が延びており(伊藤・泉,2009;杉山ほか,2010;阿部ほか,2010),分布や活動時期などが検討されている。その一方で,主にリニアメントからなる変動地形以外の地形については検討に乏しい。本研究では,数値地形データをもとにステレオ画像を作成し,海底地形を詳しく判読して地形面の区分を行った。また,地形面の特徴と分布深度などから海水準変動に伴う発達について考察した。2.対象地域の概要と方法  対象地域は神田岬沖断層の調査に関連して海上保安庁によって行われた測深調査の範囲であり(杉山ほか,2010),山口県の北西部沖の東西約65km,海岸線から約100km沖までの範囲である。研究対象地域周辺は沿岸陸上には海成段丘の分布は知られておらず(小池・町田編,2001),沿岸海域は日本列島のなかでは特異的に広い大陸棚の一部である。海岸線から最大で約8km沖以内には沈水した山地状の地形が認められるが,それより沖では起伏の乏しい緩やかな斜面が広がり,−140m程度の海盆に達する。卯持ノ瀬などの−120m程度の台地状の地形も認められる。これらの起伏は地質構造から見える沈降帯と隆起帯に対応しており,主に後期中新世に日本海側に広範囲に起こった南北圧縮運動に伴って形成されてものと考えられている(岡村ほか,2013など)。最近の地質時代には,北西―南東方向の神田岬沖断層など,横ずれ変位が卓越した断層が認められており,応力軸は時代により大きく異なる。本研究では,伊藤・泉(2009)および杉山ほか(2010)で測深調査されたデータから0.3秒(約9メートル)間隔のDEMとしたものを用いた。Goto(2021)と同様,等深線を付与した地形アナグリフを作成し,海底地形の特徴やその違い,海底に分布する急崖地形から地形面区分を行った。また,急崖基部の深度分布を比較し,地殻変動の有無を検討した。3.地形面区分と深度  神田沖断層より北東では緩傾斜の平坦面と急崖からなる6つの段丘面に区分できた。S1面は小規模で岩石海岸の延長で緩く沖に傾く岩石からなる小起伏面からなり,約−30m付近に遷緩線がある。S2面は約−50mのほぼ一定の遷緩線とその沖の緩斜面が明瞭で谷部は堆積物で埋積されているように見え,海成段丘と同様の特徴を示す。S3面はS2面を取り囲むように沿岸斜面に広く発達し,約−80mの遷緩線が明瞭であり,この沖合2〜3kmには,幅1.5kmほどの堆積物の高まりが遷緩線に平行に細長く延びている。その頂部は−82〜83mであり,S3面形成時に沿岸潮流に影響を受けて形成された沿岸州の可能性がある。S4面はS3面の沖に小規模に分布する地形面で,緩やかな平坦面が−110m付近のほぼ水平な遷緩線で断たれる。S5面はS4面の沖側と卯持ノ瀬の頂部に広がる地形面である。卯持ノ瀬は東西幅で最大約25km,南北長40km程度の大きな海台で,頂部は−117〜119m程度で極めてよく揃った平坦面をなす。S6面は海盆に連続する地形面で傾斜変換線は一部に認められるだけである。4.他地域との比較と発達過程  これらの段丘面は対馬海峡や津軽海峡,南西諸島の海底段丘と対比できるものが多く,深度も似ており,最終氷期以降の氷河性海面変動に伴って発達してきたと考えられる。−120m程度まで海退して,卯持ノ瀬の頂面にS5面が形成される程度の長期間の停滞後に,穏やかな海退でS6面の形成に移行し,その後,海進と停滞により−110m付近でS4面,−80m付近で S3面,−50m付近でS2面が形成されたと考えることができる。

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