日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P013
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沈堕滝の下流側に分布する段丘堆積物
*高波 紳太郎
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抄録

九州の大野川流域では,阿蘇4火砕流(9万年前)堆積後の溶結部における河川侵食を反映した遷急点(滝)群および段丘地形が発達している.沈堕滝(雄滝)は大野川で最も下流側の遷急点であり,阿蘇4火砕流堆積物溶結部(A4w)の分布限界である大分市竹中付近に形成された後,現在までに32 kmの流路を後退してきたと考えられる.沈堕滝の下流側には侵食段丘が両岸で連続的に存在し,それらの段丘崖の高さ(約20 m)はA4wの層厚とよく対応する.滝の後退とともに段丘の形成が進行することが示されれば,阿蘇4火砕流堆積後の開析過程を高い時間分解能で明らかにできる.本発表では沈堕滝から下流側2 kmの範囲における段丘堆積物調査の経過を報告する.

 沈堕滝の2 km下流には標高120m前後の段丘面があり,岩戸遺跡の発掘調査時に姶良AT火山灰が確認されている(町田 1980).この地点と沈堕滝の間には幅50 mほどの細長い段丘面がいくつか認められる(酒井ほか 1993)が,形成時期は不明である.今回はこのうち大野橋から佐渕川合流点までの左岸(大野町矢田字沈堕,地点a)と,徳尾公民館西隣(大野町小倉木字中津留,地点b)の2つの段丘を対象とした.また,段丘面やA4wよりも低い平坦地(佐渕川左岸側)でも同様の調査を実施した.掘削にあたり,支流の影響や農地改良による改変が小さいと思われる地点を選定した.

 現地調査は2023年3月7日から10日までの間,9地点で長さ1.5 mの検土杖を用いて各地点を掘削し,深度別に堆積物を採取した.試料については土色計(コニカミノルタSPAD-503)で10回ずつ測定し平均をマンセル表色法で示した.さらに一部を椀がけ法で洗浄して乾燥させ,実体顕微鏡で構成粒子を観察した.

 いずれの地点でも共通した層構造がみられた.地表から順に耕作土,火山灰質黒色土,火山灰まじり粘土で,段丘面上の地点aではA4wとの境界に到達した.耕作土の直下は黒ボク土で,下位の粘土層は円摩された細礫をわずかに有する河川堆積物であった.どちらもバブルウォール型火山ガラスを含むが,純粋なテフラ層は認められなかった.

 河川堆積物が層厚1 m未満の黒ボク土に覆われていて,鬼界アカホヤ火山灰層がみられないことから,調査対象の段丘は同火山灰堆積後(7300年前以降)に形成されたと考えられる.今後は右岸側の調査や火山ガラスの化学分析を進め,沈堕滝の位置推定に必要な段丘の情報を得る予定である.

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