日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 312
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東京西郊の私鉄沿線における将来推計人口の時空間分析
*井上 孝井上 希
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抄録

1.背景

 日本の高齢化率は2015年に26.0%に達し,2050年には38.0%まで上昇する見込みである。こうした日本の将来の人口変動を空間的視点から議論した研究は,都道府県別や市区町村別については多数存在する。しかし,近代化以降の日本の人口変動が鉄道網の配置に大きく影響を受けてきたにもかかわらず,鉄道沿線の将来推計人口に関する論考は少ない。とくに,大都市圏から放射状に延びる鉄道沿線の将来の人口変動は,当該都市圏の郊外化とその帰結を端的に表すと考えられるが,管見ではこれに関する包括的な論考は皆無である。

2.目的

 東京西郊に基盤を有する私鉄は,池袋,新宿,渋谷の新都心または副都心をターミナルとした路線を中心に発展してきた。これらの路線の沿線住民は,池袋,新宿,渋谷の3都心において各種の財やサービスの供給を受けている場合が多い。すなわち,これらの路線は,単に通勤・通学路線としてだけでなく,3都心とその後背地を結ぶ役割をも担ってきたと考えられ,比較的類似した成立基盤を有すると考えられる。そこで,本研究では東京西郊の3都心をターミナルとする私鉄沿線に着目し,その将来推計人口の時空間分析を行うことを目的とする。

3.対象地域とデータ

 本研究では,上述の3都心をターミナルとする路線長20km以上の6路線(東武東上線・西武池袋線・京王本線・小田急小田原線・東急田園都市線・東急東横線)を対象とする。また,これらの沿線の人口変動を空間的視点から論じるために,ターミナルからの距離および各駅からの距離に着目する。各駅からの距離については,駅勢圏の考え方を導入することによって論じる。一方,駅勢圏別の将来の人口変動を論じるためには,小地域別の将来人口推計のデータを組み替えて分析する必要があるが,この点に関しては筆頭著者である井上(2018)が開発した「小地域別将来人口推計システム」のデータを用いる。このシステムでは,2020~2065年における小地域(町丁・字)別の男女5歳階級別推計人口が得られる。これに加えて,2015年国勢調査の小地域別の男女5歳階級別人口を用いる。

4.分析手法

 分析対象とするのは,前述の6路線において近郊区間として扱われている全駅の駅勢圏である。駅勢圏については各駅から800m圏内とし,こうして画定された駅勢圏を,駅から400m以内と400-800mの2つの帯域に分割して駅別帯域別人口を算出する。さらに、この人口に基づいて,駅別帯域別に,人口密度,人口成長指数,高齢化率,20-39歳女子人口密度の4指標を求める。本研究では,こうして得られた駅勢圏別の指標を対象としてクラスター分析ならびに重回帰分析を実施する。

5.分析結果

 時空間分析の結果,2015年の人口密度が相対的に高いグループは,2040年にかけて人口密度が上昇し,その後低下することがわかった。また,2015~65年高齢化率の変化量に対して,2015年の人口密度や高齢化率が負の効果,ターミナルからの距離が正の効果を与えることがわかった。

参考文献

井上 孝 2018.「全国小地域別将来人口推計システム」正規版の公開について.E-journal GEO 13: 87-100.

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