主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2023/09/16 - 2023/09/19
はじめに
埼玉県は,北部に位置する熊谷地方気象台で日本最高気温である41.1℃を記録したとおり,夏の暑さが厳しい県である。そのため,2022年の熱中症による救急搬送者数は東京都に次いで第二位の多さであった。 埼玉県では,夏季の南風が卓越し最高気温が高くなるときに,海からの冷気移流のため県南部が北部にかけて順に気温が低下することから,県内の気温の日変化パターンに地域性があるため,熱中症による救急搬送者数に地域性があると考えられる。 そこで本発表では,埼玉県内の救急搬送者数の地域性についてその実態把握を行い,その地域性をもたらす要因として、気温や暑さ指数(WBGT)の観測データに着目して考察した結果について報告する。
埼玉県内における熱中症の救急搬送者数の地域性
埼玉県内における救急搬送者数データは,県内27消防本部ごとに存在し,そのデータを県消防課が収集したデータを解析に使用した。解析に使用したデータは搬送者ごとに,搬送救急車の所属消防本部,年齢(1歳間隔),性別,重症度(軽症、中等症、重症),搬送日時(1時間間隔),発生場所(住宅、仕事場、公衆出入場所、道路、その他)の項目がある。データの期間は,2016年〜2021年の5年間の5〜9月である。本発表では,性別と時間以外の項目を使用して解析した結果を示す。 救急搬送者数の県内の地域性を把握するために,消防本部が管轄する市町村の2020年国勢調査の人口データを元に,10万人当たりの搬送者数を計算した。全年齢の10万人当たりの搬送者数は,東京23区に隣接する県南東部の消防本部で低く,県北西部ほど多い傾向の分布であったが,最も搬送者数が多い地域は県中央部の比企丘陵に位置する消防本部であった。多い地域は少ない地域の約2.5倍の搬送者数であった。次いで,秩父や深谷・本庄地域で多い傾向であった。年齢別の救急搬送者数は,10〜22歳の若年層と65歳以上の高齢層で多い傾向があったため,この2つの年齢層の10万人当たりの搬送者数を算出した。その結果,若年層では全年齢と同様に,東京23区に隣接する県南東部で少なく北西部と秩父で多い傾向であった。しかし県南東部でも局所的に多い消防本部があることが全年齢と異なる傾向であった。高齢層では,県中央部の比企丘陵や深谷・本庄地域で多い傾向であった。発生場所(屋内と屋外)ごとの10万人当たりの搬送者数は,若年層と高齢層ともに屋外では県南部ほど少なく,北西部ほど多い傾向であったのに対し,屋内では両年齢層ともに県中央部の比企丘陵で最も多い傾向であった。
気温や暑さ指数の観測データからの考察
県内約60地点で観測した百葉箱の観測データ及び2022年7~9月に環境科学国際センターが開発した暑さ指数計の観測データから県内の夏季の気温と暑さ指数の分布を解析した。 熱中症の救急搬送者数と相関が良い,日最高気温の分布は県南東部の江戸川沿いと秩父地域で低いほかは埼玉県内のどの地域も約1℃以内で気温が高い地域であった。期間中の35℃以上の観測時間数は、日最高気温が低い地域で短く、高い地域では県北部ほど長い傾向であった。日最高暑さ指数は県中部で高い傾向であったが,日最高気温が低い地域以外では値に大きな差異は見られなかった。 熱中症の救急搬送者数の地域性は,屋外での搬送者数は35℃以上の観測時間数の分布と整合性が高いのに対し,屋内での搬送者数と気温や暑さ指数の日最高値の分布との整合性は良くなかった。