日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P037
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中国・浙江省における地質文化村の内発的発展
—CCDモデルを用いたその持続可能性実現要因の解明—
*趙 文琪
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抄録

1.研究背景と目的

中国浙江省政府は2013年,同省の耕地不足を考慮し,特に山間部の条件不利な農村地域を活性化するために,ジオパークとは異なる地質文化村戦略を提唱した.地質文化村の政策は,ジオツーリズム,特色ある農業,農業副産物加工産業の新分野形成の促進に重要な役割を果たした(Zhao & Morimoto, 2022).中国初めての登録地質文化村である白雁坑村の実証研究から,中国の土地制度と地域活動グループの視点から,地質文化村のボトムアップ・アプローチの可能性が分析された(Zhao & Morimoto, 2022).その持続可能性を評価する指標システムの構築が必要である.そこで,本研究は,定量的な評価を通して,浙江省における農村内発的発展の新しいモデルである地質文化村の持続可能性を維持する要因を解明することを目的とする.

2.研究方法

研究方法は,調和発展度モデル(CCDモデル)を応用した評価システムの構築である.内発的発展の枠組みの下で,村スケールの指標選定を行う.村スケールのデータは基本的に村民委員会と郷鎮政府から収集した.白雁坑村の持続可能性を時系列的(2013~2021)に評価し,白雁坑村と同時にほかの二つの地質文化村の現状(2021)を対照的に評価することで,地質文化村の持続可能性を維持する要因を明らかにし,将来への示唆を提示する.

3.研究対象地域

地質文化村は一般的に四つの条件を備えている必要がある: 第1に,地質資源が比較的豊富であること,第2に,村の伝統が比較的長い歴史を持っていること,第3に,地元の特色産業が一定の基盤を持っていること,第4に,地域社会が自主発展能力を持っていることである.白雁坑村は地質文化村の四つの条件を満たしており,代表的な事例として一般化に適している.ほかの二つの対照的な村(金村と施家荘村)は,地質文化村として整備の歴史が二番目と三番目長い村である.

4.結果

CCDモデルによる評価システムの構築については,「地質資源の保全」,「資源の利用と土地利用」,「社会経済的発展」という三つのサブシステムから構成される.本研究では,地質文化村の内発性を反映し,持続可能性に重要な役割や影響を与える指標システムを決定し,地質遺跡,その他の自然資源,人文的資源,土地利用,地学文化要素,自主管理,村の外観,村の生活,産業構造という九つのカテゴリーの一次指標とその下の32の二次指標を含む.本研究で構築した評価システムは,時空間的な発展を評価する可能性を持っており,一つの村の毎年の変化を比較できるだけでなく,ほかの村との空間的な比較も可能である.

5.考察

白雁坑村の村民は,村の地質資源とGIAHSを最大限に活用し,農村文化の再構築,ジオツーリズムの開発,民宿の推進,榧の実や緑茶などの農産物の加工・販売の産業形成など,ライフスタイルの変革に取り組んでいる.同時に,榧に関する伝統的な農業技術の保存にも成功した.雇用機会が増え,生活環境も改善されたことで,かつて都市部に出稼ぎに出ていた村民が,故郷に戻ってこれらの経済活動に従事するようになった.これに対して,金村は発展基盤が弱く,民宿もなく,Uターン者もまだみられない.一方,施家荘村は特色ある農業はあまりないが,ジオツーリズムには明らかな利点がある風景を持っており,民宿やUターン者が現れ始めた.

6.結論

白雁坑村の総合的な発展水準と調和的な発展度合いを時系列的に評価し,同時にほかの二つの新しい地質文化村との現状評価結果を比較することで,地質遺跡と特色ある農業の発展基盤,地域特色産業,地域活動グループ,外部の社会政治環境などが,将来にわたって内発的発展の持続性を維持する要因であると考えられる.なお,地質文化村の発展の歴史は長くなく,事例も限られているため,新たな動向を注視し,理論的枠組みを改善していく必要がある.

参考文献

Zhao, W. and Morimoto, T. 2022. The Endogenous Development Mechanism of the Baiyankeng Geocultural Village in China. Land 11: 1472, DOI: 10.3390/land11091472.

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