日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 533
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「博多せんしょう」周辺の商店を対象とした聞き取り調査報告
*上村 晶太郎岩木 雄大黒田 圭介
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抄録

1.はじめに

 本研究は,福岡市博多区千代地区周辺の商店や施設を対象に,地域振興に対する意見を収集している過程で得られた,同地区の地域住民や,住民ではないが商売を営む方が持つ,地区についての意見や感情について得られた結果を報告する。

 研究対象地域は, ”博多の台所”と大きく掲げられ,八百屋や鮮魚店,生活雑貨のお店などの商店街らしい小売店が並ぶ「博多せんしょう」と,かつて大津町商店街として賑わっていた場所に現在も存在する商店である。この地域は,在日朝鮮人が集住してきた歴史や,被差別部落であるという特徴があり,マイノリティ集住地区である (島村,2010)。

2.研究方法

 主に商店を営む方々への個別での聞き取り調査を行った。主に,博多せんしょう周辺の地域振興についての意見を伺いつつ,同地域に対する印象も聞くことができた。2023年の3月から6月にかけて現地調査を実施した。4月10日に千代人権のまちづくり館で職員に,4月18日に堅粕人権のまちづくり館で部落解放同盟の堅粕支部長に聞き取り調査を実施した。4月24日,5月1日,2日,8日かけて博多せんしょう周辺で商店を営む方々を中心とした聞き取り調査を実施した。なお,聞き取った店舗数は千代地区で13店舗である。なお,千代地区に対するイメージ調査のため,近接する福岡市博多区吉塚地区において,6月12日に聞き取り調査を行った。

 聞き取り調査の際にはインタビュイーに許可をとり,話の内容をボイスレコーダーで記録して後から全て文字に起こして資料とした。

3.結果

3-1.千代人権のまちづくり館

 この施設は現在,主に高齢化に伴う事業や被差別部落としてのフィールドワークの運営などを行っていることが分かった。在日朝鮮人の集住について質問をしたところ,職員の方々はあまり詳しくないようで,反韓的な反応をする職員もいたため,この施設はあくまで同和問題をきっかけとして生まれた施設であり,在日朝鮮人に対しての人権問題については関わっていないことが分かった。

3-2.堅粕人権のまちづくり館

 ここでは部落解放同盟の方から堅粕地区における被差別部落問題について詳しく聞くことができた。同地区に立ち並ぶ団地が福岡市によって 建てられた,環境改善を目的とした改良住宅であるということが明らか になった。改良住宅には,原則として,同地区の人,昔住んでいた人や関係のある人しか居住できないため,このことが返って差別につながる という現状があることが分かった。

3-3.博多せんしょう周辺

 同地区の業種の特徴として,韓国食品を扱う商店が多く,聞き取り調査においても親が韓国人であると話す人が商店を営んでいるということが分かった。また,その他の商店においては,家賃が安いから店舗だけを借りて他の地域からきている方,周辺に立ち並ぶ団地に居住している方など様々であった。

 賑わいについては,韓国食品,雑貨を扱うお店は昨今の韓国ブームもあり,繁盛している様子が見られたが,その他のお店では,お得意先や地域の方々を対象に細々とやっているところがほとんどであった。それに加え同地区は高齢化も進んでおり,後継ぎがいないという商店も多々見られた。活性化に関する考えも様々であり,商売が繁盛しているところは盛り上がりを求めていたが,現状に満足しているという声もあった。また,同地区は家賃が安いようで,店舗だけ借りて物置にしている人が多く,店舗を借りる以上はお店を開けて商売をしてほしいという不満の声も上がった。

3-4.他地域の住民で,千代地区で店舗を借りている店主の意見

 ネガティブなイメージを払拭したいという意見が上がった。家賃が安いということで同地区での商売を始めたのだが,最初は同地区のネガティブなイメージから反対されたようだ。しかし,実際に同地区での商売を始め,地域の方々との関りを持ってからは,ネガティブなことはなくいい町だと感じているそうで,このようなイメージがなくなればいいと話していた。

5.まとめ

 本研究では「博多せんしょう」を中心とした周辺の商店や施設への聞き取り調査を通し,千代地区の地域住民や商売を営む方から,同地区に対する意見や感情が得られた。以下に結果をまとめる。

1)博多せんしょう周辺の商店では,韓国ブームの波に乗り,商売が繁盛している韓国食品店などがある一方で,小規模での商売をしている店舗も多く,地域振興を求める意見と求めていない意見の両方があった。

2)千代地区には,他地域からのネガティブなイメージがあり,同地域の賑わいに影響しているのではないかという意見もあった。他地域から来て同地区で商売を営む方からは,実際に地域の方々と関りを持ち,同地区の印象が好転したため,このようなネガティブなイメージなくなればいいという意見が得られた。

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