日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 413
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新潟平野の降雪に対する佐渡島の影響
いわゆる”佐渡ブロック”効果
*日下 博幸鈴木 信康矢部 優人小林 大樹
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抄録

1. はじめに 新潟市は世界的な豪雪地帯に位置しているものの,その降雪量はそれほど多くなく,同地帯の他の都市よりも少ない.八木・内山(1983)は,佐渡島が季節風をブロックし,迂回させることでその風下に位置する新潟平野の降雪を抑制する(雪陰を作る)との仮説を提唱した.佐渡島の雪陰効果は,気象予報士等の間で “佐渡ブロック”と呼ばれ広く信じられている.一方,Veals et al. (2019)による気象レーダーの統計解析は,雪陰に対して迂回効果とは異なるメカニズムの存在を示唆している. 「佐渡ブロックは本当に存在するのか?」「佐渡島の雪陰のメカニズムは何なのか?」本研究では,気象レーダーの統計解析と気象モデルを用いた様々な数値実験により,この2つの問いに答える.

2.データと手法

佐渡ブロックの存在を2005-2014年の降水レーダーデータの統計解析と,気象モデルWRFを用いた数値実験から検証した.統計解析では,雲列が佐渡島に到達する事例を選定し,風向別に降水量の合成図を作成することで,季節風の風向と風下の降雪分布の関係を調査した.数値実験では,典型的な12事例を対象に,再現実験(C1),佐渡島を除去した実験(C2),佐渡島を庄内平野沖に移動した実験(C3),佐渡島を風上に200 km移動した実験(C4),物理モデルや初期値・境界値を変更した実験(C5)を実施した.最後に, 佐渡ブロックについて考察した.

3.結果

季節風と佐渡島の風下の降水分布の関係を調べたところ,どの風向の場合でもその風下側の降水量が周囲より少ないこと(雪陰の存在)が,統計的に有意な結果として確認された. さらには,実験C1と実験C2-5の結果の比較から,佐渡島がその風下150 kmまで降水量を減少させる(雪陰を作る)ことが明らかとなった(図1).さらには,この雪陰は,主として,(1) 佐渡島の風上斜面で降水が多く発生し,風下への水蒸気・雲粒の移流が減少する,(2) 佐渡島の風下の風速低下により風下海上から大気への顕熱・潜熱輸送量が減少する,という二つの効果によって引き起こされていることが分かった.

4.結論

佐渡ブロックは,新潟市の少雪の原因の一つである.雪陰の主なメカニズムは,3節(1)と(2)であると考えられる.

謝辞

本研究は,矢部優人(2017)の修士論文と小林大樹(2018)の卒業論文の内容を発展させたものである(Kusaka et al. 2023).本研究の一部は,環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費JPMEERF20232003により実施した.

参考文献

八木・内山, 1983: 天気, 30, 291-294. Kusaka, H., N.

Suzuki, Y. Yabe, and H. Kobayashi, 2023: Atmospheric Science Letters, DOI: 10.1002/asl.1182.

Veals, P. G., et al., 2019: Mon. Wea. Rev., 147, 3121-3143.

図1 12事例の平均降雪分布.(a)観測値, (b)実験C1の結果, (c)実験C2の結果, (d) 佐渡島の雪陰効果 (実験C1-C2).

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