日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 605
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地域間の多様な社会関係資本がもたらす農業経営への影響
―鳥取県日南町における水稲作の企業オーナー制度の導入を事例に―
*原田 一学
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抄録

1. 研究目的 

 近年の少子高齢化による農家の高齢化や,グローバル化の進行による農産物価格の低下により,農業生産者が減少していることに対し,農地法が改正された2000年代から企業の農業参入が進行してきた.これに着目した後藤(2015)は,大分県における農業生産法人の設立や農地リース方式による企業の農業参入による地域的影響を分析し,地域の野菜の生産拡大,耕作放棄地の活用,新規雇用者の増加といった効果があることを示した.その一方で,地域の農業生産者の視点で,企業の農業参入がもたらす影響を具体的に示す必要がある.そこで,企業が農産物オーナー制度におけるオーナーとなって間接的に農業に参入する動きに着目する.企業が農産物オーナー制度におけるオーナーとなる事例の検討はこれまでになされていない.企業の農業参入の多様な形態の一つとしてその分析を行うことは,企業の農業参入が農業生産者における農業経営にもたらす影響を考える上で意義がある.

 本研究は企業が農地のオーナーとなる農産物オーナー制度を企業オーナー制度と称し,この制度が2009年から鳥取県日南町における水稲作に導入された事例を取り上げる.そして,農業生産者と様々な地域間の多様なステークホルダーとの社会関係がどのような構造であり,それが農業生産者における農業経営にどのような影響を与えているのか検討することを目的とする.

2. 研究手法

 寺床(2016)は,農業や農村における経済的あるいは政治的なものを支える社会的なものの重要性を強調し,それらの相互作用を理解するための分析枠組みを提供する社会関係資本の概念に注目した分析を行うことで,総合的な農村理解を農業の社会的側面の再評価を通じて行うことができると述べている.本研究ではこの視点を取り入れて鳥取県日南町における企業オーナー制度の導入を捉える.

 本研究の調査は,2022年8月から11月に企業オーナー制度の運営企業,農事組合法人など3法人に聞き取り調査と現地観察,さらに鳥取県日南町役場,認定NPO法人自然再生センターに聞き取り調査を行った.

3. 結果

 鳥取県日南町における企業オーナー制度は山村と都市の交流におけるプラットフォームとしての役割を果たしている.また,山村における様々な条件の水田の利活用に貢献している.企業オーナー制度は,企業の社会的責任をめぐる構造的社会関係資本による信頼醸成と,海藻利活用による環境保全の理念をめぐる認知的社会関係資本による価値創造の双方によって成立している.これらの社会関係資本は,鳥取県日南町の農業生産者が農事組合法人などの農業法人を設立して安定した販路の確保が求められたことによって,山村の農業生産者における米の生産に関わる社会関係が山村を中心として日本各地に地理的に拡大したことで創出されたものである.これらの社会関係資本が,生産物の販売拡大,生産者の社会関係の拡大,ひいては農業生産者における農業経営の成立に寄与していることが明らかになった.

【文献】

後藤拓也 2015. 企業による農業参入の展開とその地域的影響 ―大分県を事例に―. 経済地理学年報 61:51-70.

寺床幸雄 2016. 社会関係資本に関する地理学の研究動向と課題 ―農業・農村研究との関連を中心に―. 人文地理 68(4):443-461.

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