日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P044
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十勝平野断層帯北方延長部、陸別町付近の断層変位地形
*田力 正好越後 智雄
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抄録

十勝平野断層帯は十勝平野中央部を縦断するように南北走向に発達する(地震本部,2005).断層帯北端の北方約20 kmの陸別町斗満付近では東上がりの推定活断層が知られているが(今泉ほか編,2018),十勝平野断層帯との関連は不明であった.本調査では,この推定活断層から十勝平野断層帯北端付近へと至る地域において,詳細な空中写真地形判読,地形断面測量,簡易ボーリング掘削・試料分析を行い,断層変位地形のマッピング,断層変位量の測定,変位速度の推定を試みた.調査地域は石狩山地と白糠丘陵との境界部付近に位置し,鮮新世火山である喜登牛山・東三国山から流出する河川よって形成された河成段丘が広く発達する.調査地域の地質は,主として中新世~鮮新世の堆積岩類・火山岩類・火砕流堆積物からなり,河成段丘堆積物の基盤をなしている(山口ほか,1970など).調査地域の河成段丘は,高度分布,連続性,面の形態等に基づいて,MIS1-3,MIS2-4,MIS2-6,MIS6,MIS8-10,MIS12の6段の段丘面に分類された.簡易ボーリングでは,支笏第1テフラ,クッチャロ羽幌テフラ,広尾火山灰(中村ほか,2000など)が識別された.それらのテフラの年代と広く形成年代が推定されている十勝平野の段丘面(東郷ほか,2000など)との対比に基づいて,調査地域の段丘の形成年代を推定した.段丘面の名称は対比された酸素同位体ステージに対応している.斗満付近で知られていた推定活断層(今泉ほか編,2018)の北方延長部,斗満川南岸の低位段丘面(MIS1-3,2-6面)において,今回の調査により逆向き(東上がり)の変位が新たに認められた.人工改変のため断層崖の地形は明瞭ではないが,地形断面において下流側に現河床との比高を増していること,高位の段丘面ほど比高の増加が大きいことから,既知の推定活断層も含めて確実な活断層と認定できる.東上がりの崖地形は南方の白糸~茂喜登牛付近のMIS6,8-10面上,および北方のポントマム付近のMIS8-10面上にも連続し,これらも断層変位によるものと考えられる.ただし,断層崖の両側の地形面の対比が不明確となるため,確実度は低い.また,斗満東方の大誉地付近のMIS8-10面上にも逆向きの崖が2条,並走するように発達する.崖地形はやや不明瞭であるが,これらも断層変位による可能性が考えられる.以上の確実な活断層・推定活断層を本研究では斗満断層と新称する.段丘面の変位量と形成年代から,上下平均変位速度は,斗満付近で0.1~0.3 mm/yr,ポントマム付近で0.1~0.2 mm/yr,白糸~茂喜登牛付近で0.1~0.2 mm/yrと算出された.斗満断層は十勝平野断層帯の北方延長に直接連続するような位置に分布する.十勝平野断層帯,斗満断層ともに東上がりの変位を示している活断層であり,変位速度も十勝平野断層帯で約0.3-0.4 mm/yr(地震本部,2005;東郷,2000など),斗満断層帯で約0.1-0.3 mm/yr(本調査)と類似している(図1).これらのことから,十勝平野断層帯はこれまでの評価の北端とさえていた芽登よりもさらに30 km程度北方へ延長し斗満断層の北端付近まで延びる可能性が指摘できる.これによって,十勝平野断層帯の将来発生しうる地震の規模がこれまでの想定より大きくなる可能性も考えられる.十勝平野断層帯は南西進する千島弧の前弧スリバー(Kimura, 1986など)の北部に位置し,これに関連して形成された構造と考えられているが,本調査によって前弧スリバーの運動像がより明確になったと考えられる.

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