主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
本発表では,移動生活の一形態と捉えられる「マルチハビテーション」という用語が初めて明記された1987年の第四次全国総合開発計画から現在に至るまでの国土計画と,その制定に関連する議事録を中心に,移動生活がどのような期待と共に政策上で描かれたのかを経時的に捕捉する.さらに,全国紙4紙に掲載された記事を事例に,社会における受容の状況を把握することを試みる.近年でも,2024年5月には「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」の改正によって,二地域居住を含む「特定居住」を促進するための制度が新設されるなど,活発な議論が続いている.また,発表者による調査を通じて,実際の移動生活者による語りの中でも,移住推進施策に行動を誘引されていたり,都市と地方圏を二項対立的に捉える意識が含まれていたりした.このように,日本における移動生活は政策から大きな影響を受けている.移動生活の実践は個人の主体的な意思のみならず,社会的・経済的状況,あるいは言説との相互作用の中で選択されると考えられ,それらを検討する学術的な意義は大きい.各事例の質的な分析から,移動生活に期待される役割が都市の問題解決から地方圏の問題解決へ,実践する人物像は退職後の世代から現役世代へとそれぞれ変化し,他の政策目標やビジネス的な観点とも結びついて概念が肥大化したことなどが明らかになった.当日は,より詳細な内容を発表するとともに,会場での議論を踏まえて,移動生活のより多面的な理解に取り組みたい.