1.はじめに
昨年後半からの輸入オレンジ果汁の価格高騰は、輸入減とオレンジジュース小売価格の急上昇をもたらしている。2024年春には大手飲料メーカーが販売休止を発表するなど自由化(1992年)以降では最も流通が混乱している。発表者が都内で観察した限りでも、オレンジ100%の濃縮果汁還元ジュースは900mlで200円台後半のものが多く、リンゴやブドウ、グレープフルーツと比べると割高感が目立つ。また、原料産地国としてイスラエルやメキシコなど見慣れない国が加わっているのも変化の1つである。このような流通の混乱は、国産みかん果汁産業にどのような影響を及ぼしているのか。以下、若干の考察を試みる。
2.オレンジ果汁の輸入動向と展望
オレンジ果汁(冷凍濃縮)の輸入量は2010年代には5万t前後で推移していた。しかし、2021年以降は3万t程度に減少し、2024年も回復の兆しはみられない。一方、価格は長らく1リットル300円台前半で推移してきたが、2023年には500円台後半に急騰し、2024年には600円を超えたため(日本貿易月表)、需要は急速に減少した。輸入減の最大の要因は、世界最大のオレンジ果汁生産国のブラジルで天候不順と病害(柑橘グリーニング病)が発生し、オレンジの収穫量が低迷して在庫量が過去最低水準に陥っているからである。また、米国フロリダ州が近年、相次いでハリケーンに被災し、米国がオレンジ果汁の輸入量を増やしていることも世界的な需給逼迫に繋がっている。さらに、日本的な事情として34年ぶりの円安による輸入価格の押上げと、長らく続いたデフレ下で容易に値上げできない小売環境にあることも、輸入果汁の流通減に繋がったといえる。このような状況から脱するには、ブラジル産の回復や他の輸出国の成長が望まれるが、ブラジルのオレンジ生産量は長期的には減少傾向にあり、現状ではブラジル産より安いオレンジ果汁を対日輸出している国はない。
3.国内の柑橘果汁業界の現状と課題
みかん果汁の製造量は自由化後に激減し、濃縮果汁ベースでは5分の1になっている(日園連資料)。これはオレンジとの競争に敗れたことに加えて、みかん自体の収穫量が自由化当初と比べて半減していることも関係している。このような中、一部の飲料メーカーでは苦肉の策としてオレンジにみかんを加えた混合果汁商品の販売を開始し、スーパーやコンビニに並ぶようになった。しかし、俄かに高まったみかん果汁の需要は、濃縮果汁を製造する農協系工場の在庫を一掃する効果はあったが、それほど大きな利益をもたらしてはいない。なぜなら、みかん果汁を前面に出した自社ブランド商品の販売に積極的な農協系工場は極めて少ないからである。これは、柑橘果汁は「安いオレンジで十分」という環境の醸成とみかん果汁が減少しすぎて積極的な商品展開が難しくなったことからきている。したがって、みかんがオレンジの代替品として機能して利益をもたらすには、何よりも原料みかんの集荷量を増やすことが必要で、その上で自社ブランド商品を積極的に展開しなければならない。みかん生産が減少する中で集荷量を増やすのは容易ではないが、1つの考え方として農家が産地商人や農産物直売所向けに出荷している裾物を果汁向け出荷に誘導することがある。ただし、これには購入価格の引上げが不可欠で、現状ではkg当たり10円台と目されるものを農家手取りで30円まで引上げれば効果が出るだろう。高値購入は工場側にはコスト上昇になるが、ストレート果汁の強化など高付加価値化と並行して希望小売価格を引上げられればコスト上昇分は回収できると思われる。
4.おわりに
昨今のオレンジ果汁の価格高騰は、みかん果汁商品の流通量の増加と農協系工場の果汁在庫の一掃など、プラスの変化をもたらした。これは、価格面で圧倒されていたみかん果汁に商機が来たことを意味し、高品質・高価格路線での商品展開の可能性を抱かせるものといえる。しかし「安くない」オレンジ果汁の定着は、低価格な他の果実飲料との競争に敗れ、みかんを含む柑橘果汁全体の消費減退に繋がる可能性がある。また、オレンジ果汁主体の飲料メーカーにとっては、みかん果汁の在庫が潤沢でない以上、混合果汁で急場を凌ぐ戦略はいずれ破綻するだろう。結局のところ、自由化後にオレンジに依存した柑橘果汁製造が定着した日本では、早期にオレンジ果汁価格が下落し、輸入量を増やせることが最善のシナリオではないか。