主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
1. はじめに
気圏から森林への水供給には,降水や霧,雪解け水などがあげられる.特に,降水は水分供給の大部分を占めるが,霧が頻繁に発生する地域では,霧の植生への付着が樹雨(きさめ)や樹冠流を増加させるとともに日照時間,日中の気温や水の蒸発率を低下させるため,土壌への水供給を増加させることが知られている(Kerfoot 1968).樹雨は樹木に霧が付着し,やがて大粒の水滴となって地面に滴下する現象として知られているが,日本においても海岸に近い森林地域などでは樹雨現象による林内雨量の増加は無視できない量に及ぶと考えられている(小林ほか 2002). 新潟県佐渡島大佐渡山地の一部には樹齢が300年を超える天然スギが分布しており,その維持に暖候期に発生する霧による加湿が寄与する可能性が指摘させている(河島ほか 2010).河島ほかは,大佐渡山地北部周辺で霧発生時以外の時間帯では土壌水分量が減少し,頻繁に霧が発生した時間帯では降雨が観測されなかったにもかかわらず,土壌水分量が増加することを示したが,霧の量的な把握は行われておらず,霧水による土壌への水分供給量は明らかにされていない. 本発表では,土壌への水分供給量を最も左右すると考えられる霧の植物への付着量を把握するために2023年6月に行った霧水量の観測結果と,霧発生時の気象状況を報告する.
2. 調査方法
観測は大佐渡山地北部の天然スギが分布する北側斜面,標高約800m 地点で行った.霧水量を観測するために霧コレクターを自作し,簡易雨量計,温湿度計及び風向風速計と共に設置した.霧コレクターは植生の有無による霧水量の差異を調べるためにそれぞれの場所に一つずつ設置した.同時にインターバルカメラを用いて霧の発生について確認した.取得したデータは 10 分値を単位として分析を行った.
3. 結果と考察
観測期間中の6月の降水量は195㎜であった.一方,霧水量は簡易雨量計の口径面積を基準とした値で,植生なし289㎜,植生あり90㎜であった.降水量と霧コレクターでの値を直接的に比較することは困難であるが,霧コレクターに使用した網と同様の付着能を植生がもつと考えた場合,降水量を上回る霧水が土壌に供給される可能性がある.また,植生の有無による霧水量の違いを比較すると植生ありの霧水量はなしのそれに比べ3割程度となっており,単純に考えると7割が植生に付着している可能性がある. 霧が発生するときには,降水を伴う場合(降雨型)と伴わない場合(樹雨型)があるが,降雨型の霧水量が樹雨型のそれより多い傾向にある.降雨型の霧が発生する場合には必ずしも気温が低下するわけではなく,風速の規則性も見られない.一方,樹雨型の霧は降雨型の霧が発生した直後に発生し,風速が強く気温が低くなっているときのみ発生した.