主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
1883年8月, 群馬県伊勢崎市八斗島町に位置する利根川と烏川の合流部直下にて八斗島水位流量観測所が開設された. 当該観測所は, 利根川の治水や首都圏の水害防止等において重要な役割を担っていた. しかし, 2011年9月の台風12号と13号の襲来による出水後, 左岸域の砂州の移動により観測所の水位計が埋没した.
また, 河川合流部という流れ場における砂州地形の挙動は複雑な現象であり, それに関する知見が少ないことも踏まえて, 本研究では, 研究対象地域の航空写真及び統計した水文データ, 移動床実験等の解析結果を受け止め, 水位計埋没問題の最終解決の前段階として, 砂州挙動のメカニズムの解明を目的とする. 具体的には, 平面2次元数値計算の手法で砂州の挙動変化を調べた.
2001年と2011年の河道の様相及び観測所水位計の位置を比較した結果, 2001年以前では河道と砂州形状にはほとんど変化が見られなかった. 2001年では砂州の位置変化は読み取れなかったが, 形状の変化は確認された. 2001年から2005年では利根川本川が直線化し, 砂州が下流側へ移動した. そして, 最終的に2011年の台風12号と13号の出水により, 砂州が流下方向へ移動した結果, 水位計が埋没した.
本研究で使用した解析用ソフトウェアは, 河川の流れや河床変動解析用数値シミュレーションプラットフォームiRIC Softwareである. 解析では, 非定常平面2次元流れと河床変動の計算に特化した解析用ソルバーNays2DHを使用した. 地形データを作成した際に, Fortran77を使用してプログラム上において単純Y字型水路地形データを作成した. 右岸側を烏川, 左岸側を利根川として設定して合流点より下流側約2 kmの位置で水路上において楕円形の砂州地形データを作成した. 河床勾配は1/500と設定し, 水路の流下方向長さと横断方向長さをそれぞれ8 km, 1 kmとして設定した. 計算格子を作成する際, 水路の流下方向 (縦断方向) と横断方向に対し, それぞれ等間隔に800, 300等分として格子数を分割した. 流量比 (利根川の流量を烏川の流量で除算した値) は右岸側河川と左岸側河川の流量をそれぞれ調節して変化させた. 通水時間は7200秒に設定した. また, 出水時の砂州の挙動を具体的に調べるため, 流量はそれぞれ5000 t以上と10000 t以上でケース毎に設定し, 合計4パターンの計算条件を設定した.
計算条件①と②では, 砂州の流下方向変化に比べて横断方向変化が顕著に現れた一方, 砂州横断方向の頂点が下流側に向かって延伸した現象が観察された. 左岸側水流が砂州上流端後方に対して持続的な作用を及ぼし, 砂州上流端周辺における砂州の横幅が縮小した現象から, 左岸側水流が砂州上流端縁辺に力を作用した結果, 砂州の浸食が発生したことが推察された. さらに, 計算条件①では右岸側の流量が優越していたため, 流心部が流路の中央の位置まで移動していた現象から, 右岸側水流が左岸側水流を砂州縁辺部近傍まで押し寄せた流れ場が発生し, これにより左岸側水流の作用が砂州縁辺部における地形の高低変動を着実にもたらしたことから, 右岸側流量優越時に形成した流れ場による影響も無視できないと推察された. 計算条件③と④では, 砂州の横断方向変化に比べて流下方向変化が大きいかつ砂州全体において大規模な下流側への地形変動が観察されたことは, 流量の増加に起因する水位上昇と砂州地形に対する洗堀が主要な起因と考察される. また, 出水が大規模かつ水流による砂州に対する浸食が持続的であれば最終的には砂州が消失する可能性があると指摘できる. さらに, 利根川本川の流量が優越する場合, 砂州形態の挙動には伸長と増大が併存する傾向が確認された.
本研究で得られた主な結果としては, 出水時間内における具体的な砂州形態, 砂州挙動の時間毎変化を初歩的に確認することができた. また, 烏川の流量が優越する場合に形成した流れ場が砂州の挙動に影響する可能性及び, 砂州の挙動変化は流量比の変化にも依存する可能性があることが分かった.