日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P007
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6次産業事業体の類型化と事業展開における課題
*岩井 愛彩
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抄録

近年では,食の外部化や手軽な加工食品の需要といった消費者ニーズの変化により,商品開発や販売方法の工夫,生食用とは異なる業務・加工用食品の生産が求められている。このような需要への対応が産地での課題となっていることから,日本の農業を取り巻く事象として6次産業化に着目する。政府は農林漁業等の振興と食料自給率の向上に寄与することを目的として,2020年に「六次産業化法」を制定した。これまで,原料供給や生産を本来目的としていた第1次産業従事者が加工や販売までを一挙に展開するためには,経営力や各種免許取得,販路拡大等が求められ,容易に行えるものではないとされる。東北ブロック6次産業化推進行動会議が発行する『6次産業化を進めるためのヒント』においても,心構えとして「6次産業化の取組は,自己責任を伴う」とし,「業者等との「取引」が必須」であると記載されている。

本研究では,多様な農業経営体を中核とした主に6次産業化にかかる様々な事業に焦点を当てている小田ほか(2014)を基に,筆者が2021~2023年にかけて6次産業化事例として調査してきた6事業体を小田らが想定した6次産業化の事業展開パターンに照らし合わせ,各事業体を類型化する。それぞれの特徴を挙げた上で,6次産業化に期待される地域資源を生かした事業展開における課題を考察する。

6事業体はそれぞれ,山梨県上野原市の2事業体,宮崎県日南市の1事業体,長崎県五島市の3事業体である。取り上げた事業体の多くが第2次・第3次産業従事者に属するが,第1次産業への参入や一貫した生産体系を形成していることが明らかになった。第2次・第3次産業部門から第1次産業部門への参入という形態であるからこそ,農業生産に求めるものや実施地域における課題を理解し,自ら生産して製品化していると考えられる。現地調査と類型化から,多くの事業体が加工工程の委託を行い,一部事業体では原料の買い取りを行っていることが明らかになった。このことから,一事業体が一貫した6次産業化を実現することは容易ではないと指摘できる。地域資源の活用はもちろんのこと,地域内企業との連携を通した地域全体での6次産業化の実現が課題であると考えられる。

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