日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 309
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関東平野における窪地の分布
*高波 紳太郎
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抄録

1.関東平野における窪地研究

 関東平野の段丘面には,ローム層の上に形成された大小さまざまな窪地の存在が知られている.窪地の分布は花井・千葉(1939)によって示されたものの,それ以降の高精細な地形データを用いた検討は進んでいない.いくつかの窪地では,地下水や表層堆積物の分析を通じてその成因が議論されてきた.窪地の分布は台地上の宙水地域と重なり,宙水を生じる難透水層の分布に制約される(吉村 1940).相模原市総務局総務課市史編さん室(2009)は,難透水層として相模原台地に点在する箱根新規火砕流堆積物(Hk-TPfl)を指摘したが,関東平野の窪地一般の形成要因を説明するには至っていない.武蔵野台地の窪地が武蔵野ローム層下部を欠くのに対して,下総台地の窪地では立川ローム層以降の堆積物がうすい点(杉原 1971,坂本 1996)も,窪地の形成過程および時期に地域差があることを示唆する.本発表では窪地の形成過程を解明するための最初の段階として,関東平野における窪地の分布に関する調査の経過を報告する.

2.資料と調査手法

 段丘面上の窪地はわずか数mの深さをもつに過ぎないため,等高線間隔の小さい大縮尺地形図を関東平野について収集した.調査に使用した地形図は,2万分の1正式図,1万分の1地形図,国土基本図,1942年から1944年にかけて陸地測量部と都市計画東京地方委員会が作成した3千分の1地形図(多摩地形図),1950年代に作成された東京都(「全国Q地図」で閲覧可能)および相模原市(市立図書館所蔵)の3千分の1地形図である.これらの大縮尺図がカバーしていない地域は,戦前期の2万5千分の1地形図と2万分の1迅速測図で補った.迅速測図では段丘面上にある流出河川のない池や湿地についても窪地と同様に扱った.地形図上の窪地記号(閉じた等高線)を抽出し,明らかに人工の地形と読み取れるものを除外した.窪地を構成する最も高い(外側にある)等高線を,窪地の輪郭としてトレースした.同一の窪地が複数の地形図に描かれている場合には,より縮尺が大きく,測図時期が古い地形図の等高線を採用した.ウェブ上で公開されている地形図は直接QGISに表示し,紙媒体のものはスキャンのうえジオリファレンスした.

3.窪地の分布

 調査の結果,対象とした関東平野の大縮尺地形図からは543か所の窪地が抽出された.資料による重複を含めると,のべ627か所であった.窪地の分布域は,従来から知られていた相模原台地,武蔵野台地,下総台地,水戸市付近および宇都宮市付近の台地だけでなく,鹿島台地から大宮台地にかけての平野中央にも広がっていることが判明した.窪地がのる段丘面の区分をみると,立川面相当では皆無であるのに対し,武蔵野面相当や下末吉面相当,あるいはそれよりも古い地形面に分布していた.

 上記の結果は,窪地が関東平野で広範に存在し,形成から一定の時間が経過した段丘面一般に生じる地形であることを示唆する.現在窪地がみられない台地では,開析谷の発達によって窪地が破壊されたか,形成が阻害されたと考えられる.今後は1950年代に各自治体が作成した大縮尺地形図を収集しながら,窪地の地形計測を行う予定である.

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