日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P005
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インドネシア東部におけるアグロフォレストリー「dusung」の実態把握に向けた作物データベースと地形モデルの作成
*駒木 伸比古蜂須賀 莉子近藤 友大上野 大輔Jeter SiwaletteWardis Girsang山本 宗立
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抄録

1.背景と目的

インドネシア東部に位置するマルク州では,8世紀頃より,一年生作物や多年生作物,森林作物を組み合わせて栽培するdusungと呼ばれるアグロフォレストリーシステムが存在してきた。他地域と異なる特徴として,換金用の香辛料(チョウジ,ニクズクなど)だけでなく,自給用の果樹(ドリアン,マンゴスチン,パンノキなど)およびヤシ類(サゴヤシ,サトウヤシ,ココヤシなど)やイモ類などが混栽されてきたことが挙げられる(Matinahoru,2014; Girsang, et.al, 2023)。市場経済と自給経済が長期間安定的に併存されてきた農業システムであり,世界的にみても稀有な形態であると言える。

しかしながら,dusungに関する研究は管見の限り少なく,特にdusung内ではどのような意図で作物が植えられ,管理・育成されているかについては明らかとなっていない。農業・農村地理学の分野では,伝統的に農地の分布状況を示す大縮尺の地図が作成・分析されてきたが,同様の手法が有効であると考えられる。また,作物の分布と標高や傾斜など地形との関係も分析する必要がある。しかし,インドネシア国内全域を網羅している地形図の縮尺は25万分の1であり,またDEMの空間分解能も10m程度であるため,dusung内の微細な地形の把握は困難である。そこで本発表では,dusungの実態把握に向けた作物データベースと地形モデルの作成について検討することを目的とした。

2.研究対象地域の概要

研究対象とした集落は,マルク州の主要島であるアンボン島の南西に位置するA村である。中心都市であるアンボン市から自動車で約1時間強ほど離れており,人口は約5,000人(2021年),主な宗教はキリスト教である。本発表で分析したdusungは,村の一般的な世帯(X氏)が所有しているものであり,集落からは徒歩で90分ほどかかる山間部に位置している。

Google Earthなどの衛星写真により位置座標が特定できる作業小屋を基準として,レーザー距離測定器を用いてdusungの範囲を測量した。次に,同じく作業小屋を基準として,dusung内に植樹されている有用果樹の位置を測量した。その際には各樹木にタグを付け,樹種や樹高,胸高直径などについても測定するとともに,X氏より植えた時期や目的などについても聞き取り調査を行った。同時に,ドローンを用いて上空100~150mからの様子も記録した。

こうした調査・測定の結果をまとめ,作物(樹木)のデータベースを作成した。さらに,樹木間の相対距離および相対標高を用いて,dusungの地形モデル(DEM)を作成した。

3.結果と考察

結果を図示したものが,図1である。dusungの正射影面積は,約3,000㎡であることを測定できた。また,地形モデルは現地調査時に記録した地形スケッチとほぼ同一であり,樹木の測定による地形のモデル化に成功したと考えられる。

今後は,傾斜など地形条件と作物の種類,樹齢などとの関係を検討していくことが挙げられる。こうした分析結果は,dusungの管理方法や実態を定量的に評価するための基礎的情報であり,ひいては持続的なdusungの利用につながることが期待される。

本研究は,JSPS科研費21K18402による研究の一部である。

参考文献

Girsang, W., Matsuda, M. and Yamamoto, S. 2023. Dusung agroforestry systems on Ambon Island, Central Maluku, Indonesia: sustainable livelihoods, land property rights, and poverty reduction. Journal of Marine and Island Cultures, 12(3): 160-186.

Matinahoru, J. M. 2014. A review on dusun as an indigenous agroforestry system practiced in small islands. Occasional Papers, 54: 53-60.

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