日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 407
会議情報

渥美半島旧伊良湖村における「移轉料」からみた集落の特徴
*林 哲志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに

 渥美半島は愛知県の最南部に位置し,東西に延伸する半島で,その先端が伊良湖岬である。今回のフィールドである「旧伊良湖村」は分村や合併を経て,1906(明治39)年に伊良湖岬村が成立するまで,伊良湖岬一帯を行政範囲とした自治体であった。

 この年,伊良湖村では陸軍技術研究所伊良湖試験場が拡張されるため,唯一の集落を含む村域の西側が用地として買収された。そして,「買上代金」と「移轉料」(以下,移転料と記す)を受領して全戸が移転を完了した。この事務手続きを進めるために陸軍省は『明治三十七年 買収地及附属物件調書綴 渥美郡伊良湖村控』(伊良湖自治会所蔵)を作成した(以下,『調書綴』と記す)。

 『調書綴』には,この範囲に住む,または土地を持つ「所有者」全員について,土地の買上代金と立退きに対する移転料が記された「調書」が綴られている。本研究では,移転料に該当する物件を指標にして,所有者の「郡村宅地」の位置情報をふまえて,それぞれの物件の所有状況から集落の特徴を考察するものである。

2.考察方法

 移転料が発生する所有者(民間人)の実数は109人である。この所有者に対する移転料は,「建物」に該当する物件として,「居宅」など合計316個のデータが抽出できる。建物は全て,その面積(坪数)と移転料が記されているので,面積あたりの単価が算出できる(石垣も同じ)。一方,「附属物件」は,個数と移転料が記されているため,1個あたりの単価が算出できる。よって,建物,附属物件ともに,等級や規模も推定が可能である。

 また,屋敷の位置情報を表すため,郡村宅地の地番からその位置を推定して,「旧伊良湖村の集落の位置と屋敷の配置」を作成した。ベースの空中写真は,1944(昭和19)年12月10日に米軍の偵察機が撮影した米国国立公文書館所蔵で,そこには集落跡が明瞭にみられる。その上に1884(明治17)年調の「渥美郡伊良湖村地籍字分全図」(地籍図 愛知県公文書館所蔵)から,郡村宅地の位置と区画をトレースしたレイヤーを載せた。

 そして,地理院地図や自治体の地理情報サービスのWebページから閲覧できるデータ(DEM5Aなど)を利用し地形や地質,海岸・海洋に関する情報を入手した。そして,最新の文献からの情報や,参与観察によって得られた聞き取りデータも参考にした。

3.結果の概要

 集落の特徴をみるために,3つの地区に大別して物件の所有状況を捉えた。建物については,居宅は全てにあるが,厠・便所,土蔵,網納屋などについて,地区ごとの特徴があった。また,石垣についてもその規模を含めて,地区ごとに異なる特徴があった。その他の附属物件は,甕と井戸・井がほぼ排他的であった。このことは,海岸からの距離とそれぞれの地区の標高や背後の地形などの要因と,屋敷(地区)が展開した時期,産業との関わりなどの要因が関係していると考えられる。そして,3つの地区を総括することが,この集落の特徴を考察するうえで有効な視点となる。

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top