主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
1.一般廃棄物処理における地理的枠組み
一般廃棄物処理を含む環境・衛生分野は,従来より市町村を超えたいわゆる広域処理が多く行われてきた。栗島(2004)では,広域処理の主な理由として,①処理施設がNIMBYの性質を持つこと,②処理施設が負の外部性の性質を持つこと,③一般廃棄物処理には「規模の経済」が成立すること,を挙げている。一方で,1970年代のごみ戦争を背景に,「自区内処理」が長らく原則とされてきたこともあり,国が積極的に広域化を働きかけることはなかった。この流れが変わるのは,1997年の厚生省による「ごみ処理の広域化について」の通知(以下,「平成9年通知」)である。これは当時,社会問題にもなっていたダイオキシン類の排出削減を主な理由として,都道府県に一般廃棄物処理の広域化計画の策定と広域化に向けた市町村への指導を求めたものであり,全ての都道府県においてごみ処理広域化計画が策定されるに至った。また国は,1998年よりごみ焼却施設の国庫補助の対象を「原則100t/日以上」とするなどして,広域化の後押しをした。一方で,2012年の環境省調査によると,広域化計画をすべて達成した都道府県は9,一部達成した都道府県は17となっており,達成状況には差があった。そして,ダイオキシン問題が下火となったことや,その後の「平成の大合併」の進展により,国の広域化への働きかけは,それほど強くなくなった。 ごみ処理の広域化が再び大きく動き始めたのは,2019年の環境省による「持続可能な適正処理の確保に向けたごみ処理の広域化及びごみ処理施設の集約化について」の通知である。この通知は,急速な人口減少による効率性の低下や処理施設の老朽化,気候変動対策の推進などを理由に,再び都道府県に一般廃棄物処理の広域化・集約化計画の策定を求めたものである。「平成9年通知」と大きく異なっているのは,一部事務組合等の広域行政による方式だけでなく,自治体間でのごみ種類別処理分担,周辺自治体のごみの大都市での受入,民間処理業者への処理委託等の多様な方式を提案している点である。また,国立研究開発法人の国立環境研究所(2019)は,都道府県での広域化・集約化計画に先んじて広域ブロック案の提案を行っている。さらに環境省(2020)は,広域化・集約化の詳細な手引きを作成しており,今般の広域化への国の意向はとても強いものと考えられる。
2.気候変動施策における地理的枠組み
一般廃棄物処理と比べると基礎自治体の気候変動施策の歴史は浅い。しかし,2024年6月末時点で,60.8%(1,044団体)がゼロカーボンシティ宣言(2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ)を行っており,今や気候変動施策は基礎自治体の重要な環境政策の1つとなっている。また,地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)では,都道府県および施行時特例市以上の市に対して区域内の排出削減計画である「地方公共団体実行計画(区域施策編)」(以下,区域施策編)の策定を義務付けている。ただし,気候変動の原因である温室効果ガス排出については,エネルギー起源や交通起源が主であり,単独の基礎自治体での取り組みには限界がある。そこで,2015年の温対法の改正では,区域施策編の複数の基礎自治体による共同策定が可能となった。また,環境省の脱炭素先行地域の募集でも,第3回募集以降は「地域間連携」での提案を重点選定するとしている。一方で,区域施策編の共同策定は未だ3事例しかなく,脱炭素先行地域の複数自治体による地域間連携での提案も4事例しかない。以上のように現状では,気候変動施策について,広域化の動きはそれほど見られない。しかし,国やゼロカーボンシティを表明した市区町村が2050年までのカーボンニュートラルを本気で進めるのであれば,広域化・自治体間連携は必須である。今後の動向が注目される。