1.はじめに
わが国における近年の自然災害の特徴は,「激甚化」や「広域化」,「多発化」のほか,異なる災害種により被災する「複合化」(複合災害)や,被災後の復興・再建過程において同一地域が再び被災する「重複化」(重複被災)の発生が挙げられる。既往研究においても一連の災害における居住者の災害リスク認知を踏まえた避難意思や,被災自治体の対応を検討した研究が報告されているが,今後も災害発生が懸念される中で,「被災者支援」の立場からの検討が少ないことが課題として挙げられる。そこで,本研究では,2018年6月発生した「大阪府北部地震」と同年9月の「平成30年台風第21号」による複合災害の被災地を対象として,建物被害と被災者支援を一体的に把握・検討し,その課題を明らかにすることを目的とする。
2.研究対象地域・研究方法
本研究では,両災害において甚大な被害が生じた大阪府茨木市を対象として検討を行った。被害状況の分析に際しては,茨木市危機管理課より「罹災台帳」データを,支援状況については茨木市社会福祉協議会より「災害ボランティア支援記録」データをそれぞれ管理・セキュリティ等に関する覚書を締結した後に提供を受け,住所情報をもとに位置情報に変換を行い,GISを用いて分析を行った。分析に際しては,メッシュのほか,同市における避難情報発令や市民活動の基礎単位となっている小学校区単位での集計を行い,地域特性を考慮しながら検討を行った。建物被害状況では全壊3棟,半壊95棟,一部損壊13,319棟となっており,一部損壊が全体の99.3%と大半を占め,市域全体で同様の被害傾向がみられた。
3.複合災害下の被災者支援
茨木市における被災者支援の分析にあたっては災害ボランティアセンターの運営主体である茨木市社会福祉協議会の記録に基づき実施した。同記録においては支援内容が,被災者からのニーズ別に「ブルーシート」「屋外清掃等支援」「屋内片付等支援」「その他支援」の4種類に分類されており,各々の訪問先の住所と実施日について2018年11月末までの期間に実施された2,191件が記録された。週単位で集計した対応種別の件数を,図3に示す。本図より発災直後から3週間ほどの間において,降雨による雨漏りを防ぐため,「ブルーシート」の対応が集中したほか,「屋内片付等支援」の割合が高く表れている。また,発災から12週目の9月初旬において再び「ブルーシート」の対応が突出しているのは,関西地方に記録的な豪雨をもたらした「平成30年台風第21号」の影響によるものである。一方,支援総数においては,単身高齢世帯割合が高いほど,支援数の減少がみられた。本災害においては,その特性上「在宅避難者」割合が高く,福祉相談員や保健師,NPO等による定期的な見守り,声掛けも行われたが,支援要請の声を上げることが困難な被災者が一定数いたことが想定される。
4.今後の課題
本分析では,個別の住所等を扱う点において,個人情報保護の観点から充分に留意をして実施したが,同時に,より詳細に災害を記録し,次代へ伝えるための「社会記録」としていくためには,災害検証方法の在り方を継続して検討していくことが求められる。