日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P088
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房総半島東部の海岸線の屈曲度と岩石強度との関係
*平野 優人孫 小淳青木 久
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抄録

1.はじめに出入りに富む屈曲した海岸線をもつ地形としてリアス海岸が有名である.リアス海岸は,河谷の発達した山地・丘陵が沈水し,岬と入江とが交互に並ぶ,屈曲した海岸線をもつ海岸地形である.日本列島周辺では,約2万年前の最終氷期の海面は現在よりも140 mほど低く,その後,縄文海進と呼ばれる海面上昇が起こり,関東沿岸では約7000年前(縄文時代前期)には,ほぼ現在の海面の高さになったと考えられている(遠藤,2017).貝塚(1998)は,この縄文海進による沈水により,日本の各地でリアス海岸が形成されたことを報告している. 青木(2018)は,日本のリアス海岸が三陸海岸・志摩半島・若狭湾などに限られていること,さらに硬岩から成る海岸に分布する傾向があることに基づき,現在,日本にみられるリアス海岸は,沈水以降,岬が侵食されずに維持されてきた可能性を指摘した.このことは,各海岸の特性(例えば,波の営力や構成岩石の強度)の違いにより,沈水後にリアス(大きな屈曲)が維持された海岸や,(屈曲が低下して)リアスが消滅した海岸が存在することを示唆している.そこで,本研究では,岩石制約の立場から,リアス海岸の維持・発達条件を明らかにするための第一歩として,千葉県房総半島東部海岸を対象として,海岸線の屈曲度と岬を構成する岩石強度との関係について調べてみたので,その結果を報告する.

2.調査地域の概要と調査方法本研究では,千葉県房総半島東部(外房)の太平洋に面した(九十九里浜を除く)屏風ヶ浦から小湊までの海岸を調査地域とした.選定理由は(1)襲来する波浪のエネルギーや潮汐の場所的差異が小さいこと,(2)地域内には屈曲度の異なる海岸線が見出され,地質年代の異なる種々の岩石が露出すること,(3)地域一帯は背後が丘陵・台地となっている岩石海岸であり,縄文海進最盛期には,リアス海岸が形成されたと想定できること,などによる. 海岸線の形状を示す指標として,屈曲度を定義し,それらに関わる地形量を地形図から計測した.現地では,シュミットロックハンマー計測により,岬を構成する岩石の強度を把握した.現地観察や海底地形図により,岬前面の海岸地形の特徴を調べた.

3.調査結察と考察各サイトの海岸線の屈曲度と岬の岩石強度との関係を考察したところ,岩石強度が大きい海岸では,岬の先端に波食棚が発達し,海岸線が屈曲していた.一方,岩石強度がきわめて小さい屏風ヶ浦では,遠浅の海底地形である海食台が発達し,海岸線が直線的であった.この結果は,海岸を構成する岩石強度が,沈水後の岬の短縮の程度を規定し,海岸線の屈曲の大小に関与することを示唆している. 付記 本研究は,公益財団法人国土地理協会2022年度学術研究助成と科研費(23K17527)の助成を受けて実施された成果である.

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