症例の概要:認知症罹患者が増加する現在,前病段階への先制的な予防介入が,認知症発症の回避に資するものと期待されている.本症例は,Lewy小体病に伴う軽度認知障害と診断された無歯顎患者に対し,全部床義歯を装着し,咀嚼機能と認知機能の変化を経時的に観察した.
咀嚼機能は,グルコセンサーGS-II(GC,東京,日本)を用いて,咀嚼能力を計測した.認知機能に関しては,非認知症レベル,すなわち軽度認知機能障害を評価するJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J),認知症をスクリーニングする評価尺度であるMini-mental state examination(MMSE)およびHasegawa dementia rating scale-revised(HDS-R),社会機能を評価するLawton Instrumental Activity of Daily Living(Lawton-IADL)を用いて多層的に評価した.
考察:上下顎に新規の全部床義歯を装着することで咀嚼機能は向上し,18カ月の経過観察においても認知機能は軽度認知障害レベルに留まり,認知症への移行は認めなかった.
結論:補綴治療による口腔機能への介入が,認知機能障害の進行および 認知症発症に対する先制的予防介入となる可能性が示唆された.