日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
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ISSN-L : 1883-4426
13 巻, 4 号
令和3年10月
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
依頼論文
◆企画:第129回学術大会/シンポジウム4「口腔内スキャナーを使いこなすために知っておくべき基礎知識」
  • 堀田 康弘
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 13 巻 4 号 p. 291-298
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

     近年,歯科だけにとどまらず,産業界でも3Dプリンティングを中心とした新たな三次元での製造技術の普及と共に,もとになる三次元座標データ収集に対する要求が高まっている.以前は,設計形状を図面として記述するために行っていた製図やクレーモデル製作などの手作業での工程を効率化するために開発がすすめられたCAD/CAMシステムであったが,リバースエンジニアリングやCAE(computer-aided engineering)など,デジタルデータをスタートラインとする工程が増えたことで三次元計測に対する研究開発が進められるようになった.本解説では,産業界の三次元計測に用いられる代表的な手法について,その原理と特徴を解説し,歯科の口腔内スキャナで応用されている技術の解説と注意点についてまとめる.

  • 高橋 英和
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 13 巻 4 号 p. 299-304
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

     現在,日本国内では10種類を超える口腔内スキャナーが販売されている.本稿執筆にあたり,これらの価格,測定部の寸法,読取領域,先端の滅菌方法等についてメーカーに聞き取り調査を行った.制御用PCを別途購入が必要な製品もあり,導入時に必要な費用は,100万円から690万円と大きな幅があった.多くの製品はかつてのように撮影時にパウダーを必要とせず,カラー撮影が可能であった.重量は80~525 gと製品により大きく異なっていた.また,支台歯周辺のスキャン精度に特化した製品や,全体像を均一精度で撮影する製品など,製品毎の特徴があることがわかった.

  • 木村 健二
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 13 巻 4 号 p. 305-310
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

     デジタル技工の進展とともに,歯科技工物の製作方法は劇的な変化を遂げている.2005年,国内においてジルコニアの認可が下りると,その加工が可能なCAD/CAM技工が徐々に浸透してきた.その後,2014年にCAD/CAM冠が保険適用されるようになると,その勢いは加速した.そして現在,口腔内スキャナー(Intraoral Scanner.以下IOSと記載)が世界的に注目を浴び,国内でも自費治療分野で普及しつつあり,口腔内スキャナーデータから補綴物の製作を行う機会が増している.本稿では,歯科技工士の立場から,デジタル技工が従来の技工と異なる点について,いくつかの観点からお伝えしたい.

◆企画:第129回学術大会/シンポジウム6「欠損歯列における咬合再構成−適正な咬合高径をどのように求めるか−」
  • 山下 秀一郎
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 13 巻 4 号 p. 311-317
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

     部分欠損歯列における咬合の再構成を行う際には,咬合高径の回復が必要となることが多い.そのような場合,咬合高径単独で修正を行うのではなく,咬合平面をはじめとし,咬合に関わる他の要素の再構成も併せて行いながら治療を進めることが重要である.

     咬合高径を新たに設定する際には,使用中の補綴装置で決定される咬合高径を参考に,顔面計測や下顎安静位を用いることが一般的である.しかし,症例によっては下顎安静位を越えた咬合挙上が必要であり,低い咬合高径に適応した筋や顎関節の状態を十分に観察し,新たな安静空隙の出現を確認しなければならない.さらに,顎関節においては,下顎頭が顆頭安定位に位置する範囲での咬合挙上が要件である.

原著論文
  • -高齢者施設職員に対するアンケート調査-
    渡邊 諒, 榊原 渓, 山本 寛明, 足立 ことの, 石田 健, 三輪 俊太, 岩堀 正俊, 都尾 元宣
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 13 巻 4 号 p. 318-324
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    目的:誤嚥性肺炎の予防には残存歯のケアのみならず義歯の清掃についても重要性が高い.介護状態になると今後は義歯の管理は所有者本人ではなくケアに対する知識の少ない老人ホームや特別養護老人ホームなどの介護施設職員が関わっていく必要がある.本研究は今後の義歯ケアの普及と口腔衛生水準の向上ための一助として,介護施設職員にアンケートによる意識調査を行い検討した.

    方法:岐阜県と長野県にある特別養護老人ホーム4施設とグループホーム1 施設の職員全員に無記名にて義歯に対する知識についてアンケートを行った.332名を対象とし,回答は単一回答形式で行った.

    結果:332名のうち290名の回答が得られ,回答率は87.3%であった.勤続年数は5年未満が56.9%と最も多かった.施設内で義歯に触れる職員は全体の84.5%であり,勉強会などで義歯ケアについて教わったことがあるのは53.1%であった.口腔ケアと誤嚥性肺炎との関係を知っている人は93.7% に達したが,義歯ケアの雑誌や本を読んでいる人は28.6%であった.

    結論:介護施設職員332名の義歯に対する知識についてアンケートを行い,以下の結論を示唆した.要介護施設の職員においては義歯ケア,口腔ケアの知識は必要不可欠である.誤嚥性肺炎と口腔ケアの関連は周知されている.施設毎に画一的に口腔ケア,義歯ケアが行えるような基準やマニュアルを作成するべきである.介護施設職員に向けたセミナーや勉強会を敢行し,知識を普及する必要がある.

症例報告
  • 井上 允, 眞鍋 雄太, 一色 ゆかり, 長島 信太朗, 本間 優太, 木本 克彦
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 325-332
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:認知症罹患者が増加する現在,前病段階への先制的な予防介入が,認知症発症の回避に資するものと期待されている.本症例は,Lewy小体病に伴う軽度認知障害と診断された無歯顎患者に対し,全部床義歯を装着し,咀嚼機能と認知機能の変化を経時的に観察した.

     咀嚼機能は,グルコセンサーGS-II(GC,東京,日本)を用いて,咀嚼能力を計測した.認知機能に関しては,非認知症レベル,すなわち軽度認知機能障害を評価するJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J),認知症をスクリーニングする評価尺度であるMini-mental state examination(MMSE)およびHasegawa dementia rating scale-revised(HDS-R),社会機能を評価するLawton Instrumental Activity of Daily Living(Lawton-IADL)を用いて多層的に評価した.

    考察:上下顎に新規の全部床義歯を装着することで咀嚼機能は向上し,18カ月の経過観察においても認知機能は軽度認知障害レベルに留まり,認知症への移行は認めなかった.

    結論:補綴治療による口腔機能への介入が,認知機能障害の進行および 認知症発症に対する先制的予防介入となる可能性が示唆された.

専門医症例報告
  • 古田 弘樹
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 333-336
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は71歳の男性.多数歯欠損による咀嚼障害を主訴に来院した.まず保存不可能な歯の抜歯を行い,プロビジョナルレストレーションと暫間義歯で咬合の安定を図った.その後,暫間義歯を改造しながら前処置を行い,最終補綴として欠損部への金属床義歯を装着した.

    考察:金属床義歯の適用と残存歯に対する歯冠補綴を行ったことで,適切な咬合圧分配と咬合平面の修正が可能となり,義歯の安定を得ることができたと考える.

    結論:すれ違い咬合を有する患者に対して適切な咬合再構成を行い,最終補綴装置として金属床義歯を適用することで,長期間における良好な咀嚼機能の維持ができた.

  • 牧原 勇介
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 337-340
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は初診時71歳の女性,1990年に左側舌縁部舌癌(T3N0M0)の診断のもと,舌辺縁切除,1999年に再発後の小線源療法が施行された.その後,2016年 65| 欠損による咀嚼障害および,舌癌術後の嚥下・構音障害を主訴として,紹介・受診となった.

    考察65| 欠損歯に対して,部分床義歯を製作し併行して舌訓練を行った.嚥下および構音の変化を確認したのち,舌接触補助床(PAP)を製作し,嚥下造影検査(VF)にて機能の改善を確認した.PAP装着前と比較してPAP装着後の舌圧は高い値を示した.また構音機能も一部障害は残ったが,おおむね改善しており,現在も問題なく機能している.

    結論:PAPによる嚥下・構音機能の改善に伴い,患者満足度は高いものとなった.

  • 加藤 聖也
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 341-344
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は72歳男性.下顎前歯部歯肉の自発痛を主訴とし,下顎臼歯部欠損補綴も希望して来院した.下顎臼歯部欠損と全顎的な咬耗に起因した低位咬合を呈していたため,歯周基本治療後に治療用義歯を用いて咬合挙上を行った.その後,咬合挙上した下顎位で調整を行ったプロビジョナルレストレーションの形態を再現した最終補綴装置を装着した.

    考察:プロビジョナルレストレーションと治療用義歯を用いることで,適正な下顎位およびアンテリアガイダンスを最終補綴装置に反映させることができた.

    結論:低位咬合を呈する患者に対して咬合挙上により適正な下顎位とアンテリアガイダンスを与えたことで,咀嚼機能や審美性が改善された.

  • 井川 知子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 345-348
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:29歳の女性,摂食障害に伴う酸蝕症による,審美的な問題および咀嚼困難を主訴に来院した.全顎的に歯冠崩壊が生じ,咬合高径の低下が認められた.平均的歯冠長を参考に咬合挙上量を設定し,オクルーザルオーバーレイスプリント,プロビジョナルレストレーションにて経過観察後,犬歯誘導咬合を付与したオールセラミッククラウンを装着した.

    考察:歯を削合することなく装着可能な,可撤性オクルーザルオーバーレイスプリントは,精神的に不安定な摂食障害患者における咬合治療に有効であると考えられた.

    結論:摂食障害に伴う重度酸蝕症に対し,可逆的アプローチによる顎位決定法を適応し,補綴処置を行った結果,良好な結果が得られた.

  • 小奈 正弘
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 349-352
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:73歳男性.下顎義歯の不適合により咀嚼困難を訴え来院した.上顎は多数の歯が保存可能であったが,下顎はすべての歯が保存困難な状態であった.治療用義歯を用いて咬合の安定を図った後に最終補綴装置として,上顎にブリッジと部分床義歯,下顎に全部床義歯を製作した.

    考察:安定した治療用義歯の形態を移行することで予知性の高い最終補綴装置の製作が可能であり,口腔に関連するquality of life,義歯に対する満足度と咀嚼スコアの改善ができた.

    結論:加圧因子と受圧条件がインバランスな欠損状態に対し,治療用義歯を用いて咬合の安定を確認し,補綴装置の製作を行うことで良好な結果を得ることができた.

  • 大島 正充
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 353-356
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は64歳女性.上顎右側ブリッジの動揺による咀嚼困難を主訴に来院した.咬合性外傷症状が認められた上顎右側犬歯に対して,暫間補綴装置による固定と咬合力の分散にて症状改善を図り,製作した固定性補綴装置を仮着して経過観察を行った後に装着した.

    考察:咬合性外傷を有する歯の保存可否を判断するためには,適切な原因除去と急性症状の消退が得られたのちに,支台歯として利用が可能かを見極める段階的な補綴治療計画が重要であると考えられた.

    結論:他院にて抜歯適応と診断された歯の保存可否を適切に判断した後に,固定性補綴装置を装着することにより,支台歯への利用と咀嚼機能の回復,患者満足度の改善に貢献できた.

  • 前畑 香
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 357-360
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は76歳女性.上顎残存歯の疼痛と歯肉腫脹を主訴に来院した.義歯不適合と顎間関係の不良を認め,暫間義歯による義歯床下粘膜の改善と顎間関係の改善を図った後,最終義歯を製作した.

    考察:顎堤吸収が著しく,機能運動が困難な本症例に, ティッシュコンディショナーを用いた閉口機能印象を行うことで,咬合圧や口腔周囲組織の機能運動を反映した印象採得ができ,維持安定を図る義歯床辺縁形態と研磨面形態を最終義歯に付与することができた.

    結論:全部床義歯製作において,通法による印象採得が困難な顎堤条件や機能的条件の症例に対し,ティッシュコンディショナーを用いた閉口機能印象の有用性が示唆された.

  • 海野 航
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 361-364
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は85歳女性.下顎総義歯による疼痛と,咀嚼困難感,発話時の義歯の動揺を主訴に来院した.下顎臼歯部の顎堤は著しく吸収しており,義歯の維持安定が得られにくかった.使用中義歯の調整とダイナミック印象で得られた義歯形態を最終義歯に反映させるために,複製義歯を製作し新義歯を製作した.

    考察:複製義歯を用いたことで,旧義歯で得られた機能的な義歯形態を保存し新義歯に反映することができ,かつ複製義歯により印象採得,咬合採得を行ったことで,患者は義歯製作中も旧義歯を使用し続けることができた.

    結論:顎堤吸収の進行した症例において,旧義歯を修正して得られた良好な形態を複製義歯により保存したことで,良好な結果を得ることができた.

  • 八田 昂大
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 13 巻 4 号 p. 365-368
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は,初診時81歳の女性で,下顎全部床義歯の動揺および咀嚼困難を主訴に来院した.患者の現義歯の状態と,触診や視診による唇頰側粘膜,舌の可動域等を精査し,下顎全部床義歯の床縁位置不良による維持・安定不良を原因とする咀嚼障害と診断した.閉口機能印象を行い,上下顎全部床義歯を製作した.

    考察:十分な検査と義歯の床縁の設定位置や形態に配慮して閉口機能印象を行ったことで,機能時の適切な床縁の位置や辺縁形態だけでなく適切な研磨面形態も印象することができたため,良好な結果につながったと考えられる.

    結論:義歯の外形ならびに床縁形態に考慮し,印象採得の方法を工夫したことで,主訴の改善と良好な経過を得ることができた.

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