2026 年 18 巻 2 号 p. 84-92
在宅歯科医療の現場において,補綴介入を行うべきか否かの判断は口腔内条件だけでは完結せず,生活の場,介護サービスと支援体制,本人の価値観などが重なり合う複雑な意思決定となる.そこで本稿は,クリティカル・シンキングの枠組みに基づき,検討すべき論点を漏れなく整理するフレームワークとして国際生活機能分類(ICF)を用いることを提案する.ICFは,心身機能・身体構造,活動,参加に加え,環境因子と個人因子を相互作用として捉える枠組みである.特に在宅では,「義歯を扱う・清掃する・保管する」といった日常管理が継続できるか,またそれを支える体制を確立できるかの検討が成否を左右する.さらにアウトカム(成功の定義)として,義歯の価値を「食べる」ことの回復に限らず,社会参加の回復としても評価する必要がある.一方で,義歯は装着自体が目的ではなく,生活機能の回復を支える手段である以上,補綴介入を行わない選択が妥当となる場合もある.その際も0か100かの二択にせず,段階的・条件付きの適用を含めて検討すべきであろう.また病期フェーズに応じた介入と再評価が必要であり,とくに回復期における「将来の生活期・在宅を見据えた攻めの介入」は重要な選択肢となる.ICFを用いてこれらの要素を体系的に整理することで,在宅療養者に対する補綴介入の可否判断における意思決定の質と説明力の向上に資することを期待する.