抄録
認知症高齢者の食の喜びと良好な栄養状態を維持することは,QoLの観点のみならず,認知症の進行を抑制するうえでも重要であり,補綴治療がそれに寄与しうる場合に認知症を理由に治療を制限することは許されない.その一方で,認知症高齢者における疼痛など愁訴表出の困難,インフォームドコンセントに不可欠の同意能力の減弱ないし喪失は,補綴治療上の意思決定にさまざまな問題を投げかけている.認知症高齢者で食品誤嚥による窒息や,義歯の誤飲,誤嚥の危険が高いことも,補綴治療に際して考慮に含める必要がある.疼痛などの愁訴を確実に把握したうえで,認知症の病期や予後をも考慮して治療方針を立案し,適切な過程を踏んだ意思決定のもと,必要十分で簡素な補綴治療を行うことが望ましい.本稿では,認知症高齢者の補綴治療に関する上述の問題に関して,現状と展望の整理を試みた.