日本補綴歯科学会誌
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6 巻, 3 号
【特集】オーバーデンチャーに対する評価の変遷/補綴歯科治療でも見逃せない顎骨壊死/認知症高齢者に対する補綴歯科治療の考え方/社会から求められる歯科衛生士
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
依頼論文
◆総説:オーバーデンチャーに対する評価の変遷
  • 前田 芳信, 権田 知也, 髙橋 利士, 水野 遥子
    2014 年 6 巻 3 号 p. 223-232
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     オーバーデンチャーあるいはインプラントオーバーデンチャーでは,
    1)少なくとも支台周囲の顎骨の吸収は抑制されるが,粘膜支持部位では吸収は進行する可能性がある.
    2)咬合力の調節に効果があるが,支台の存在で義歯が安定することによる可能性もある.
    3)天然歯ではう蝕,歯周疾患が,インプラントでは埋入部位が生存率に影響する.
    4)アタッチメントは種類により適応条件が異なり,単なる比較は無意味で,利点と欠点を考慮して選択す るべきである.
    5)患者満足度は高いといえる.
    6)咀嚼能力(能率)はコンプリートデンチャーよりも優れているが,その要因としては義歯の安定があげ られる.
    7)術後の問題事象の発生頻度は高いが,発生を抑制する方法は存在する.
◆総説:補綴歯科治療でも見逃せない顎骨壊死
  • ─ 骨吸収阻害薬に関連するBRONJ, ARONJの最新の知見について ─
    今井 裕
    2014 年 6 巻 3 号 p. 233-241
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     ビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)が注目されているが,完全ヒト型RANKL 抗体デノスマブでもBRONJと同頻度に顎骨壊死が発症することが報告されている.そのため, American Society of Clinical Oncology(ASCO)は“bone-modifying agents(BMA)”としてビスフォスフォネートとRANKL抗体を位置づけ,最近では,これらの顎骨壊死はAnti-resorptive agents-related osteonecrosis of the jaw(ARONJ)と呼ばれている.ARONJは,適切な歯科管理により減少させることが可能なため,密接な医科歯科連携による対応が重要である.
◆企画論文:認知症高齢者に対する補綴歯科治療の考え方
  • 服部 佳功
    2014 年 6 巻 3 号 p. 242
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
  • 柴田 展人, 新井 平伊
    2014 年 6 巻 3 号 p. 243-248
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     認知症の症状は,もの忘れなどの中核症状と抑うつ,興奮,不安,徘徊などの周辺症状に大別される.認知症の原因は多岐にわたるが,最も多い原因はAlzheimer病であり,現在日本では中核症状に対して4剤の薬剤の保険適応が認められており,それぞれの症例に合せて薬剤選択がされている.周辺症状に対しては,さまざまな対症的な薬物治療があるが,病期が進行してくると介護上対応が困難な場合が多い.認知症では,認知機能が低下するほど死亡率が高まるが,主な死亡原因は嚥下性肺炎である.嚥下性肺炎の予防には口腔ケア,補綴治療が必須である.嚥下機能を保つことは,患者のコミュニケーションも改善し,認知機能維持にも重要である.補綴治療を適切に行い残存歯数を維持することは,栄養状態の改善にもつながり,高齢認知症患者においてはその意義も大きい.補綴治療は患者の認知機能を評価しながら,治療への理解・協力を求めていくこととなる.必要に応じて家族・介護者のサポートを得ながら,誤飲などの事故防止に努めていくことが大切である.口腔内セネストパチーは高齢者うつ病に伴いやすい症状の一つであり,認知機能障害との関係も深い.認知症専門医,歯科医師が連携しながら対応していくことが期待される.
  • 平野 浩彦
    2014 年 6 巻 3 号 p. 249-254
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     日本の認知症の数は465万人との報告(厚労省研究班2013年)がなされ,“身近な病気:common disease”の一つになっている.歯科医療従事者も認知症を理解し,予知性のある歯科治療,口腔衛生管理を継続的に認知症高齢者に提供することが,超高齢社会での歯科に求められている最も重要なミッションの一つと考える.以上を踏まえ,本稿では認知症高齢者の歯科治療立案プロセスに必要な視点を明確にする目的で,アルツハイマー型認知症に代表される変性性認知症を中心に,その進行とともに変遷する口腔の治療・ケアニーズについて調査知見等を中心に解説した.
  • 白山 靖彦
    2014 年 6 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     認知症高齢者の増加および独居化に伴い,認知症ケアの充実が喫緊の課題となっている.これを受け,介護保険や権利擁護の諸制度などの施策が打ち出されてきているが,医科および歯科における医療同意に関する意思決定プロセスの定式化や,その合意形成のあり方など残された課題も多い.そこで本稿では,社会福祉の立場から認知症高齢者の生活を支える仕組みや制度などの動向について概観した上で,認知症高齢者の意思決定プロセスに関連して,医科歯科連携を基軸とする関連障害の取組み例を紹介する.加えて,多職種協働による意思決定支援の例を提示する.
  • 服部 佳功
    2014 年 6 巻 3 号 p. 261-265
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     認知症高齢者の食の喜びと良好な栄養状態を維持することは,QoLの観点のみならず,認知症の進行を抑制するうえでも重要であり,補綴治療がそれに寄与しうる場合に認知症を理由に治療を制限することは許されない.その一方で,認知症高齢者における疼痛など愁訴表出の困難,インフォームドコンセントに不可欠の同意能力の減弱ないし喪失は,補綴治療上の意思決定にさまざまな問題を投げかけている.認知症高齢者で食品誤嚥による窒息や,義歯の誤飲,誤嚥の危険が高いことも,補綴治療に際して考慮に含める必要がある.疼痛などの愁訴を確実に把握したうえで,認知症の病期や予後をも考慮して治療方針を立案し,適切な過程を踏んだ意思決定のもと,必要十分で簡素な補綴治療を行うことが望ましい.本稿では,認知症高齢者の補綴治療に関する上述の問題に関して,現状と展望の整理を試みた.
◆企画論文:社会から求められる歯科衛生士-健康長寿を支える口腔管理の過去・現在・未来-
  • ―健康長寿を支える口腔管理の過去・現在・未来―
    峯 篤史, 松山 美和
    2014 年 6 巻 3 号 p. 266
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
  • -医療・介護との連携を目指して-
    金澤 紀子
    2014 年 6 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     わが国の歯科衛生士制度は昭和23年の歯科衛生士法制定・公布により誕生した.法制定時の業務は「歯・口腔疾患の予防処置」であったが,法改正により「歯科診療の補助」及び「歯科保健指導」が加わり三大業務が確立した.また,修業年限は3年以上となり4年制大学や大学院課程も設置され資質向上が図られてきている.歯科衛生士の役割は歯科保健医療ニーズの変化にともない変化する.近年では高齢化の進展により在宅歯科医療や訪問口腔ケアの必要性が高まっている.また,口腔と全身との関係やQOL向上において,医療や介護と連携した役割が求められている.そのため,多職種との連携・協働において歯科衛生士の専門性を発揮することが重要である.
  • 林 惠子
    2014 年 6 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     歯科衛生士の就業年数の延長や大学の学部や大学院の設立などで歯科衛生士不足はますます深刻である.一方歯科衛生士のほとんどである女性の働く環境が改善され復職するものも多くなってきた.また歯周病やインプラントなど多くの分野の学会が認定・専門歯科衛生士制度を持っており,訪問診療などでの口腔ケアなどこれから歯科衛生士の活躍する場所はますます広がる事が考えられる.今までのような単なる歯科診療の補助の業務だけでなく,専門職の歯科衛生士として連携し協働していくためには労働環境,歯科衛生士の業務への考え方やパートナーとしての地位を確立されなければならない.
  • -教育・研究者の養成と業務のあり方を考える-
    日髙 勝美
    2014 年 6 巻 3 号 p. 279-284
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     歯科衛生士の業務に関する法の規定と教育の現状を踏まえた上で,今後の歯科衛生士の養成や業務のあり方について概説した.教育・研究等に従事する資質の高い歯科衛生士を養成確保するためには,例えば看護教育の経緯を参考に大学や大学院の整備を図ることが考えられる.また,介護保険施設等で円滑に歯科衛生士業務を行うためには,専門性が認定された歯科衛生士など一定の要件を満たす歯科衛生士を活用することが必要であると考えられる.歯科保健医療のさらなる活性化を図る観点から,これらの課題について国や歯科医療関係者等の間で積極的に検討が進められることを望みたい.
  • 松山 美和
    2014 年 6 巻 3 号 p. 285-290
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
     社会変化に伴い高度化・複雑化する医療の中で,歯科衛生士にも専門医療職としての資質向上が求められている.歯科衛生士の職域や業務内容は今後拡大すると予測され,「自ら学び行動できる」歯科衛生士が社会に必要とされる.
     本稿では歯科衛生士の大学教育と大学院教育を紹介し,キャリアとしての認定歯科衛生士制度についても紹介する.歯科衛生士が資質向上を目指すとき,歯科医師は技術指導のみならず,「学べる」機会や環境を提供し,知識・理解を深めることを支援すべきである.
     本学会には,日本歯科衛生士会と連携して歯科衛生士の学びの場として提供・活用することが歯科衛生士のキャリアアップ支援になることを提言したい.
原著論文
  • ―フレーム材とポーセレンの焼成条件の影響―
    工藤 桃子, 三浦 賞子, 菊地 聖史, 稲垣 亮一, 笠原 紳, 佐々木 啓一, 依田 正信
    2014 年 6 巻 3 号 p. 291-299
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,ジルコニアフレームや焼成条件の変化がベニアポーセレンの機械的性質に及ぼす影響を調べるため,フレーム材料,焼成温度,昇温速度による破壊靱性を検討することである.
    方法:破壊靱性値の測定は,ISO15732に準じた破壊靭性試験により評価した.ジルコニアオール
    セラミック修復用ベニアポーセレンは,2種類の異なった厚さのジルコニアフレーム(以下ZAC)に,各3条件の焼成温度及び昇温速度にて焼成した.コントロールとして,メタルセラミック修復用ベニアポーセレン及びメタルフレーム(以下PFM)を使用した.データは,2-way ANOVA Tukey-Kramer HSD test(α=0.05)にて統計分析を行った.
    結果:ZAC及びPFMの破壊靱性値は,フレーム厚さの違いや焼成温度条件では有意差はみられなかった.昇温速度条件では,ZACでは速度を速くした場合においてマニュアル条件よりも破壊靱性値は有意に低くなった(p<0.05).また,PFMでは速度を遅くした場合においてマニュアル条件及び速い条件よりも破壊靱性値は有意に高い値となった(p<0.05).
    結論:ジルコニアオールセラミック修復用ベニアポーセレンの破壊靭性値は,フレーム厚さの違いや焼成温度による影響はみられなかったが,昇温速度を速くした場合において,有意に低い値となった.
  • 中島 優, 小出 馨, 荒川 いつか, 小出 勝義
    2014 年 6 巻 3 号 p. 300-308
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,頭位の側方傾斜度を変化させた際の顆頭点および切歯点の三次元的位置を測定し,頭位の側方傾斜と下顎位の関連性を検討した.
    方法:被験者は健常有歯顎者30名とし,上顎にはアンテリアジグを,下顎にはパラオクルーザルクラッチを装着し,Win Jaw Systemを用いて顆頭点と切歯点の位置を記録した.頭位の側方傾斜の条件は,0°と5°,10°,15°,20°,25°,30°傾斜させた計7条件とした.各条件において,頭位の側方傾斜による顆頭点の前後方向,左右方向,上下方向の偏位量および切歯点の前後方向,左右方向の偏位量を測定した.分析は,頭位の側方傾斜度による顆頭点および切歯点の偏位量の違いについて,反復測定による一元配置分散分析を行い,その後Bonferroni法により多重比較検定を行った.
    結果:頭位の側方傾斜により,傾斜側顆頭点の偏位量は頭位の傾斜度が増すにつれて増加傾向を示したが,前後方向,左右方向,上下方向ともに有意差は認められなかった.非傾斜側顆頭点は頭位の傾斜度が増すにつれて前下方へ偏位し,10°以上の傾斜条件で基準との間に偏位量の差が認められた.切歯点は頭位の傾斜度が増すにつれて傾斜側前方へ偏位し,10°以上の傾斜条件で有意差が認められた.
    結論:頭位の側方傾斜は下顎を傾斜側前方へ偏位させることが明らかとなり,傾斜度の増加に伴い偏位量が増す傾向が示唆された.
  • 石上 貴之, 高橋 敏幸, 黒川 勝英, 上野 俊明
    2014 年 6 巻 3 号 p. 309-316
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
    目的:健常成人を対象に,スプリント装着により臼歯部咬合支持域を仮想喪失させた場合の姿勢外乱からの立ち直り動作反応を検索し,臼歯部咬合支持域と姿勢調節機能の関連性を検証した.
    方法:被験者は顎口腔系に異常を認めない健常成人15名(26.3±3.1歳)である.フォースプレート上に開眼,閉足状態で直立させ,右側下肢の総腓骨神経に1msecの最大上経皮電気刺激を8–10秒間隔でランダムに与えて,長腓骨筋および前脛骨筋を不随意収縮させた.咬合条件は①下顎安静状態(Control),②前歯接触型スプリント装着時の随意性最大噛みしめ(AntSP-CL),③随意性最大噛みしめ(CL)とし,外乱後1秒間の重心動揺総軌跡長,前後および左右方向の床反力最大振幅値について比較分析を行った.
    結果:Control時に比べ,AntSP-CL時の重心動揺総軌跡長,前後および左右方向の床反力最大振幅値に,いずれも有意差は認められなかった.CL時の重心動揺総軌跡長(p<0.01)および前後方向の床反力最大振幅値(p<0.05)はControl時と比べて有意に減少した(one-way ANOVA, Bonferroni correction method).
    結論:臼歯部咬合支持域はCLによる姿勢立ち直り調節機能を亢進させる可能性が示唆されたことから,咬合の適正保持は咀嚼機能のみならず運動機能にとっても重要と思われる.
専門医症例報告
  • 新保 秀仁
    2014 年 6 巻 3 号 p. 317-320
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:76歳,男性.2009年2月,下顎高度顎堤吸収を伴う,義歯不適合による咀嚼困難を主訴に本学補綴科に来院した.発音を利用しデンチャースペースを採得するピエゾグラフィおよび機能的運動路法により機能的咬合面形態を付与した金属二重構造義歯を装着した.
    考察:人工歯排列位置および義歯筋圧面形態が患者固有のデンチャースペースと合致したことから,義歯の維持安定を獲得でき,また機能的咬合面形態の付与により義歯調整回数を減少するだけでなく,咬合の長期安定に寄与したと考えられた.
    結論:高度に吸収した下顎顎堤に対して,生理学的な形態および機能的咬合を付与した義歯は咀嚼機能の長期安定に有効であった.
  • 松永 興昌
    2014 年 6 巻 3 号 p. 321-324
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時54歳の男性.下顎右側臼歯部ブリッジの違和感と左側臼歯部欠損による咀嚼障害を主訴に来院した.下顎右側臼歯部ブリッジ予後不良と診断され,ブリッジを除去し,ブリッジの支台歯を抜歯したため両側遊離端欠損となり咬合支持を考慮してインプラント補綴治療を行った.
    考察:インプラント支台による固定性補綴の咬合支持は,良好な咀嚼機能回復が行うことができた.最終補綴物装着から現在3年以上が経過しているが,約4カ月毎のメンテナンスと口腔衛生指導を継続していることでインプラント部と残存歯を経年的に維持できることが示された.
    結論:適切なインプラントの位置と上部構造の設計,補綴物装着後のメンテナンスは,可撤性の両側遊離端義歯に比べ咀嚼機能の良好な回復と有効な咬合支持を獲得できることが示された.
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