抄録
【目的】
「調理科学」は1947年制定の「家政学部設置基準」において設置すべき「専攻課目」の1つとされ、1948年以降、新制大学として設置された家政学部系大学の食物学科に設けられた科目で、それまでの家事科では通常は置かれていなかった新しい科目である。そのため、各大学では当該科目を設置するとともに、その新しい内容をどのようなものとするかについて検討し、実施してきた。本発表では家政系新制大学に置かれた「調理科学」分野の成立期に視点を当て、その内容と変化について調査・検討したので報告する。
【方法】
主な資料としては、『近代日本教育制度史料』、『文部省年報』を、各大学の教育課程については学校史、学生便覧等を用い、さらに教科書として用いられたと考えられる「調理科学」各書を資料とした。
【結果】
1975年までに家政学部・学科を設置した大学の調査を行ったところ、家政学部・家政学科等の90%が女子大に設置されてはいるものの、東北大、大阪市立大など共学の大学や文学部に置かれた場合もあった。「調理科学」にあたる科目名は必ずしも設置基準と同じ名称ではなく、大学により、調理学、調理化学、料理科学など異なった科目名が使われた。また、事例大学の「調理科学」担当者や教科書の執筆者についての調査では、前身が東京女子高等師範学校教諭(調理系)や栄養学をベースとした専門学校教諭、栄養研究所、労働科学研究所の研究員などがみられ、それにより、「調理科学」の視点・主張は異なっていた。また、お茶の水女子大学及び日本女子大学の調理に関する科目の変遷を見ると、いずれも調理の理論、実習、実験へと細分化される傾向が見られた。