抄録
目的摂食・嚥下を容易にする目的で高齢者施設などでは水溶性高分子である寒天やゼラチンが多く用いられている。しかし、咀嚼によって破砕しかされない寒天と融解を伴うゼラチンを混合したゲルについて咽頭部での食塊の挙動を数値化して報告した例はほとんど見られない。本研究では、咀嚼・嚥下困難者が安全に食べることのできる食品の基礎的データを集積するために、水溶性高分子である寒天とゼラチンの混合ゲルを試料として、咽頭部での食塊の移動特性、食塊の力学特性に及ぼす摂取量ならびに咀嚼回数の影響について検討した。
方法試料は1.0%寒天ゾルと3.0%ゼラチンゾルを混合した混合ゲルを調製し、熱特性およびテクスチャー特性を測定し、官能評価および嚥下時の咽頭部での食塊の流速を超音波パルスドップラー法よりあわせて測定した。試料の摂取量は、3、6、9、12gとし、咀嚼回数は5、10、30、50回とした。
結果混合ゲルは寒天の混合割合が増加すると食塊の液状化は抑制される傾向が認められた。官能評価のまとまりやすさでは、50%、75%ゼラチン混合ゲルにおいて、まとまりやすいと評価された。飲み込みやすさにおいては、咀嚼回数の多い30回、50回咀嚼では十分な咀嚼が行われるため評価は高かったが、咀嚼回数が少ない場合では、ゼラチンの混合により評価は高くなった。主成分分析の結果、混合ゲルは硬さ、最大速度ともに寒天ゲルとゼラチンゲルの中間の領域に位置した。25%、50%ゼラチン混合ゲルは硬さや最大速度が極端に変化することはなく、混合による効果が見られた。摂取量が最大速度に影響し、咀嚼回数が硬さに影響していることが判明した。