抄録
【目的】我々が開発した「くじら醤油」は、本大会などで、醸造の早い時期から高い抗酸化能を示す事などをORAC値の観点から報告した1)。今回は、その「くじら醤油」の醸造中の化学成分の変化や味について、別に試作した「大豆醤油」や「カタクチイワシ魚醤」と比較した結果を報告する。
【方法】それぞれの醤油や魚醤は、素材原料、麹、塩、水のみを用いて、小スケールで醸造した。分析項目は、色、Brix、塩分、無塩可溶性固形分、遊離アミノ酸、遊離糖、核酸、有機酸などを測定した。また、官能検査は、それぞれの試料を火入れ後、大豆醤油を標準として五味など9項目にわたる評価点法を用いた。
【結果】醸造したくじら醤油、カタクチイワシ魚醤、大豆醤油の遊離糖及び糖アルコールの総量は、それぞれ1,400、2,010、7,320mg/100 mlであった。有機酸総量はそれぞれ1,488、3,634、2,852 mg/100 mlであり、くじら醤油ではその殆どが乳酸であった。遊離アミノ酸総量は、10,563、9,120、9,354 mg/100 mlであったが、官能検査から得られたくじら醤油の旨みの差に、旨みに関するアミノ酸は関与していないと結論した。また、旨みに関与する核酸関連物質のイノシン酸は、いずれの試料からも検出されなかった。一方、クジラ赤肉の独特の成分であるヒスチジン関連ジペプチドのバレニンが、くじら醤油のみ758 mg/100 ml含まれていた。くじら醤油の旨みには、バレニンが関与していると推定した。
1) 原田和樹, 前田俊道, 藤川綾可, 河村幸恵, 小俣文登, 小泉武夫:くじら食文化を生かす~抗酸化能の高いクジラ醤油, 生物工学, 87, 304-305 (2009).