日本調理科学会大会研究発表要旨集
平成27年度大会(一社)日本調理科学会
セッションID: 2P-30
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ポスタ―発表
静岡県焼津市の漁師の家に伝わる食文化と和の精神
*川口 恭菜竹下 温子
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抄録

【目的】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の取組として、我々は静岡県の中部に位置する焼津市で聞き書き調査を行った。その中で、特にこの地域だけでなく全国に伝え継ぎたい漁師の家に伝わる「和の精神」について、焼津市の食文化と共に報告する。
【方法】日本調理科学会特別研究調査ガイドラインに基づき聞き書き調査を行った。静岡県焼津市に45年以上居住する64~75歳の5名(男性1名、女性4名)を対象とし、伝え継ぎたい家庭料理について、その料理名、食材、調理・加工法、食にまつわるエピソードについて聞き書きした。
【結果】静岡県焼津市はほとんどが港に面した港町であるため、イワシ、サバ、カツオなどを主とした魚料理の文化で、新鮮なうちは刺身で食し、古くなってくるとお醤油に浸けこみ、焼いたり、煮て食べ(カツオ飯、カツオジャ)、最後は魚の骨までもお湯に入れ、出る出汁を飲み、余すことなく食べていた。焼津に伝わる独特な魚料理と言えば「へそ」と呼ばれる魚の心臓をおでんの具や、味噌煮にしたものや、サバやイワシを用いた「黒はんぺん」がある。漁師の家では「船底一枚海の上」という言葉が伝え継がれており、このように命をかけて獲ってきたものだから、一つも無駄にすることができないという漁師の思いと、命あるものの命を奪い人がながらえている。それを考えると余さず食べることが、そのものへの供養であり、礼儀であるという精神が受け継がれ、「もったいない」という考え方が今もなお根強く残っているらしい。この精神は、焼津地方のみならず、日本全国に伝え継ぎたい、日本の精神であると考えられた。漁師は海に出る際に必ず神事を執り行う。その中で、日本の和の原点でもある禅の精神を受け継いでいっているのかもしれない。

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