抄録
【目的】油脂を用いた加熱調理の品質に油脂の風味は大きく影響し,油脂の原料によって,風味の質,強度,持続時間はさまざまに異なることが経験的に知られている.官能評価の一手法であるTemporal Dominance of Sensations(TDS) は,食べ始めてから後味まで,複数の官能特性の変化を継続的にとらえることができるため,油脂の風味の評価に有効であると考えられる.本発表では,加熱した植物油の風味をTDSによってプロファイリングしたので報告する.
【方法】なたね油,パームオレイン,大豆油,こめ油,とうもろこし油の市販あるいは業務用同等品を用いた.ヒーティングブロックを用いて,各油を180℃で0,120分間加熱して試料油とした.評価項目は,先行研究および予備評価から,「青臭い」「甘い香り」等10項目を設定し,PCのモニタにランダム順に配置した.訓練された8人のパネリストが,試料油0.3gを口に入れ,180秒間,「支配的な(意識が向けられている)風味」を1つ選択し続ける評価に従事した.評価は4回繰り返し,それぞれの時間で何人のパネリストが選択したかの割合を各項目について算出し,TDS曲線を得た.
【結果】加熱時間の異なる試料油を比較したところ,例えば,大豆油は,0分加熱では口に入れて約60秒間は青臭さや魚のにおい等複数の風味が有意であったが,120分加熱では初めの60秒間はほぼ魚のにおいのみ,といったように,加熱時間による風味の変化が,口に入れてからの経過時間の情報とともにTDS曲線から読み取れた.また,油の原料については,例えば,とうもろこし油は口に入れた直後にペンキのようなにおいがするものの,その後,主としてナッツのにおいや香ばしさが感じられるといった特徴を示すことができた.こめ油は,前半の甘い香りが特徴的で,これは,前報1)のTime-Intensityおよび多肢選択評価の結果を裏付けるものであった.1)早川他,日本調理科学会平成27年度大会要旨集,P53