【目的】澱粉の老化が生じると,一般に硬い物性になることが知られているが,老化による物理的な構造変化(ゲル構造や結晶構造の形成)との関連性は詳細に解明されていない。本研究では,濃度の異なる小麦澱粉ゲルの保存に伴う物性の変化に,老化澱粉の結晶化過程が与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】ゲルの調製は,小麦澱粉の濃度が15%,30%になるように澱粉−水混合物を調製し,シート状に広げて加熱糊化した(以下,15%ゲル,30%ゲル)。保存温度は4℃,保存時間は3時間から最大7日間とした。テクスチャー測定では,針状プランジャーで貫通試験を行い,最大応力,破断歪を求め,示差走査熱量測定(DSC),動的粘弾性測定も行った。
【結果】テクスチャー測定の結果,30%ゲルは,保存3日目までは,保存時間の経過とともに最大応力および破断歪は有意に低下した。保存3日目以降は,最大応力は急激に増加した一方,破断歪は変化が認められなかった。15%ゲルは,経時的な変化は小さいものの,保存時間とともに緩やかに最大応力が増加し,破断歪はほぼ変化しなかった。DSCでは,30%ゲルは保存1日目,15%ゲルは保存3日目に老化澱粉の結晶の融解ピークが認められた。動的粘弾性測定の周波数依存性においても,保存により低周波数域のG’,G’’の傾きが緩やかになり,安定した構造へと変化していた。以上より,30%ゲルでは,老化澱粉の結晶化過程でゲルの物性が変化しており,結晶化初期(保存1日目)では脆く,その後結晶化が進むにつれて硬くなると推察された。一方,15%ゲルは結晶化に伴う物性の顕著な変化は認められず,澱粉濃度の違いによって,老化澱粉の結晶化過程がゲルの物性に及ぼす影響が異なることが明らかとなった。