【目的】肉の多汁性(ジューシーさ)は,水分含量(物理化学的特性)および口の潤い程度(官能特性)などによって影響を受け,後者は肉からの水分と唾液の量に依存する。本研究では,さまざまな温度と時間によって低温調理した鶏肉の多汁性を物理化学的特性および官能特性の観点で調べることを目的とした。
【方法】鶏むね肉を試料とし,温度57,60,63,66,70℃で1,2,3時間それぞれ低温調理し,冷却後にクッキングロスを測定した。圧力濾紙法を用いてジューシーさを測定した。硬さはレオメーターにより平型プローブを用いて測定した。12人のパネラーにより,温度57,63,70℃で3時間調理した鶏むね肉試料を用い,分析型の官能評価を行った。100℃で3時間加熱した鶏肉試料をコントロールとし,多汁性および硬さを咀嚼回数(咀嚼3回,咀嚼10回,飲み込む前)ごとに分けて調べた。
【結果】調理温度が高くなるほど,調理時間が長くなるほど,クッキングロスの値は大きく,ジューシーさの値は低くなり,硬さの値は大きくなった。ジューシーさとクッキングロスには負の相関が(p<0.01)が,ジューシーさと硬さにも負の相関(p<0.05)が見られ,肉の多汁性には肉の水分含量および硬さに関連していることが示された。一方,官能評価の結果,咀嚼の回数によって,試料間の硬さには差は見られなかったが,ジューシーさは特に噛む回数が10回目の際に試料間に有意な差があったこれらの結果から,肉の多汁性は単に物理化学的な水分含量だけはではなく,パネラーの感覚にも大きく左右されることが明らかとなった。そのため,肉の多汁性をより正確に評価するためには多角的なアプローチが必要であると考えられる。