赤門マネジメント・レビュー
Online ISSN : 1347-4448
Print ISSN : 1348-5504
ISSN-L : 1347-4448

この記事には本公開記事があります。本公開記事を参照してください。
引用する場合も本公開記事を引用してください。

地球温暖化問題に対する自動車産業の「総力戦」について
「電気自動車オンリー論」の誤謬
藤本 隆宏
著者情報
ジャーナル フリー 早期公開

論文ID: 0220202a

この記事には本公開記事があります。
詳細
抄録

本論では、地球温暖化問題対策の一環として、自動車走行による二酸化炭素 (CO2) 発生量削減の方策について考える。特に、近年注目されている電気自動車 (BEV) の普及 (保有台数シェアの増加) が、CO2発生量削減という目的に対してどの程度貢献できるか、またどんな限界があるかを、目的合理性の観点から、単純化した仮定を置いたCO2発生量概算モデルを用いて予備的に検討する。まず、所与の車種に関して、「年間CO2発生量=保有車両台数×1台当たり年間平均走行距離 (km/台・年)×1 km当たり平均CO2発生量 (g・km)」という基本式を当てはめることにより、日本国内の自動車 (保有約8,000万台) の走行から発生しているCO2発生量 (約1.8億トン) を近似的に試算する。次に、乗用車 (保有約6,000万台) の走行からのCO2発生量 (約1億トン) を2030年までに20% (2,000万トン) 以上削減するという目標に対して、①BEV、➁ハイブリッド車、③従来型内燃機関乗用車がどのように貢献するかを同様に概算的に予測した。予測結果は、2030年の3車種の構成や燃費改善率により変動するが、2020年代に限って言えば、BEVの削減貢献量は500~700万トン、ハイブリッド車の貢献は900~1,100万トン、内燃機関車の貢献は600~700万トン、合計削減量は2,100万~2,400万トンで目標を達成し得るとの試算を得た。このことから、2020年代を含む長期の地球温暖化対策において、BEVの貢献は確かに大きいが、BEVだけでは削減目標に達しないことが明らかになった。したがって、国内外で近年盛んな「BEVオンリー論」(BEVの普及のみを唯一の有効手段とみなし、その他の手段を否定する論調) は目的合理性において誤りであり、すべての可能な削減手段を総動員する「総力戦論」がより目的合理的だ、との結論を得る。次に、なぜこのような「BEVオンリー論の誤謬」が生じるかについて、錯覚・短絡という側面 (目的と手段の混同、生産増と保有増のタイムラグ、有効需要に基づかぬ生産目標、BEVの商品力など)、および、各国産業政策における策略的な側面 (例えば欧州、米国、中国の自国自動車産業振興の思惑) について議論している。

著者関連情報
© 2022 特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
feedback
Top